書籍御礼SS-EX1

2015年 09月29日 (火) 22:41

読んで下さっている皆さまありがとうございます。
以下に書籍購入者御礼用のショートストーリーを掲載します。
書籍掲載の番外編を読まないと、訳がわからない部分があるかと思います。
その旨をご留意いただければと思います。
またショートストーリーのEXは後日もう一話作成したいと思っております。
それではお楽しみ頂ければ幸いです。


◇書籍御礼ショートストーリー

 その日、レジーが寝過ごしたのには、訳があった。

 どこからか話し声が聞こえる。
 しかしレジーは自室として与えられた部屋で眠っているはずだ。王子の部屋に勝手に入って、おしゃべりをしていく者など居ようはずもない。

(勝手に入る……いや、入れた人間ならいる、か?)
 眠りでややぼやけていた頭がはっきりしてきたレジーは、真夜中に部屋に入れたキアラのことを思い出す。

 キアラが起きてしまったのだろうか。でもそれだけなら、誰と話しているのか。
 まさかメイベルに見つかったとか?

 ちょっとまずいなと思ったレジーは起き上る。
 目を開けてみれば、部屋の中は蝋燭の明かりも絶えて、うっすらと空いたカーテンから差し込む月明かりで、かろうじて物の様子が分かる状態だった。

 立っている人物は誰もいない。
 キアラも寝台のレジーとは反対の端で、こちらに背を向けて横たわって動かない。眠っているようだ。
 では一体誰の声だったのかと思った時だった。

「お母さん……」
 ぽつりと聞こえた声に、レジーはハッとする。

 キアラの寝言だ。彼女が寝言でぽつぽつと何か話していたのだろう。
 実母の記憶がないと言っていたが、母を呼ぶということは、何か自分では気づかなくとも何かを覚えていて、夢の中で思い出しているのだろう。
 レジーはもう一度目を閉じようとしたのだが。

「……みかん……私のおやつ、食べた……」
「は?」

 おやつ? とレジーは自分の眉間にしわが寄るのを感じた。
 亡き母を思い出していたのではなく、おやつを他人に取られた夢を見ていたのか。そして『みかん』とは何だろう。人の名前にしてはおかしい。

「みかんって誰だろう?」
 どこかの国にそういった名前の者が多い場所があるのだろうか。聞いたことがないとつぶやけば、返事がキアラからやってきた。

「犬のくせに、なんで私のプリン……」
「…………」

 犬だったようだ。それならまぁ、ちょっと変わった名前をつけてもおかしくはない。
 その後、気になって耳を済ませていれば、やたらとキアラが寝言が多いことがわかった。

「この間、お父さんも冷蔵庫のプリン食べちゃった」
「お母さんもだよ……。間違えたって、食べちゃった」
「あげく犬にまでとられて」

 とにかく食べ物のことばかりのようだが、何度も彼女は家族や犬に先を越されてしまうようだ。
 なんだかキアラらしくて、聞いてるレジーは思わず口元に笑みが浮かんでくる。
 そういえばアランも犬好きだ。明日か明後日にでも、アランと一緒に犬で遊ばせてみようかと考えた。見ていたらきっと楽しいに違いない。
 やがてキアラがレジーの方を向くように寝返りをうち、

「みかん~。だめだって、そのパンは返しなさい、犬が、甘いもの食べちゃ、だめ……」

 めっ、と言いながら、キアラが手をかすかにぱたぱたと動かす。
 見てしまったレジーは、吹きだしそうになって口を抑えた。
 笑ったら絶対起きてしまう。それは楽しくない。だから必死に肩を震わせて頑張っていたのだが、

「おすわり!」
 指をびしっと天井を指して言った瞬間、

「うぐっ」
 堪え切れない笑い声が、変な呻きになって出てしまった。

 そのせいだろう。むくっとキアラが起きてしまった。
 レジーは起きてしまったのかと思ったのだが、違ったようだ。

「まさか寂しくて、かまってほしいの?」
 仕方ないと言いながら目を半開きにしたキアラが、レジーの方に丸太のようにごろごろ転がってきて――。
 あろうことか、レジーの頭を抱えるようにしてくっついてきたのだ。

「あったかい、みかん……」

 背中を撫でる手が、眠っているせいで力が弱くて、指先でなぞられているかのようだ。
 抱きこまれたレジーの頭は、日干しされた布からする花の香りだけではない、どこか甘い匂いに包まれて、彼の思考を一瞬止めさせた。

 頭を抱く腕も、頬に押し付けられたキアラの体も柔らかくて、さすがにちょっとレジーも慌てた。
 笑っている場合じゃない。
 もしキアラが起きてしまったら、レジーが抱きついたわけではなくとも、問題が発生する。なによりキアラが絶叫するだろう。メイベルどころかグロウルまで飛び込んでくる事態になる。

 眠たいが、早々にキアラを部屋に戻してしまおう。
 そう思って、まずは彼女の手から逃れようとしたところだった。

「よしよし」

 子供のように頭を撫でられて、レジーはどこか懐かしい思いに駆られる。
 こんな風に子ども扱いをされるのは、メイベル相手でさえ遠い昔のことだったのを思い出して……肩の力が抜けた。

 もし他の人間にこんなことをされたら、手を跳ねのけていただろう。
 それは叔母のベアトリスでも、辺境伯でも変わらない。むしろ彼らは色々なことを知っているからこそ、レジーがこんな気持ちを持っているなどと知られたくはない相手だ。

 ……誰が知られたいと思うだろう、自分が親のいない寂しさを感じていることを。
 ずっと何でもないようなふりをしてきたのは、みじめな自分を知られたくないからだ。
 幼い頃に、そんな感傷も振り切ったと思っていた。

 だけどキアラとは、同じみじめさを知っている者同士だ。
 そして悲しむでもなく、そのせいで大変だったよねと努力したことをお互いに労わることができる人。

「君に暴かれても、撫でられても嫌じゃないのは……同じだからなのかな」

 なにせ彼女に隠しごとはしていない。
 失った母のことも話した。昔語りにして混ぜっ返したので、キアラはまだピンときていないようだが、いずれ思い至るだろう。
 その時、彼女だって気の毒には思うかもしれないが、過剰に気遣いはしないとわかっているから、気楽に話してしまえたのだ。

 けれどキアラと自分には違うことが一つある。
 彼女は逃げだした。自分だけの運命を掴んで生きるために。レジーはどこへ行くわけでもなく、早く終わってしまえばいいと思っていた。

 だから彼女がどうするのか、とても興味がある。自由になったキアラが、どんな生き方をするつもりなのかを。
 だから彼女が生きていく術を得る助けになろうと思うし、自由でいてほしい。
 自分がそうできない分だけ、彼女を守ってやりたいと思う。いつか彼女にこの手が必要無くなったと思える日までは。

 考えているうちに、レジーは少しずつまた眠りに落ちていきそうな自分に気付く。
 キアラの腕は細いのに、十分に温かくて心地良すぎた。
 それでもこのままではだめだからと、眠い頭で毛布を丸めて自分の代わりにキアラに抱きしめさせて、そっと彼女から離れた。

 そうしてキアラが反対の端に行ってしまったので、レジーはキアラが居た場所を占領することにする。
 まだそこは温かくて。キアラの体温が残っているのだと思うと、するりと眠りに落ちた。


 だから寝過ごしたのは、夜中に起こしたキアラのせいだ。
 でも目を覚ましたら彼女は居なくなっていたので、二人だけの秘密になるはずだったのだが。
 それもメイベルが、部屋に二つも水差しがあるのを見つけるまでの短い間だったが。

 しかも原因がキアラだと、どうしてメイベルは何も聞かずに分かったのか。
 その後キアラを呼んできたメイベルに、部屋の中でソファに並んで座って説教されるという目に遭った。

 なぜ水差しがここにと言われて、レジーはとっさに嘘をついた。
 夜中に眠れなくて廊下に出たところで、キアラと会って、水がほしくて水差しをもらったのだと。

 けれどメイベルを誤魔化しきれなかった。
 なにせ椅子の位置が変わっていたことにメイベルは気付いていた。
 その状態から、真夜中にキアラを部屋の中に入れて話していたことは、まるっとお見通しだったらしい。

 また、そんなことをレジーがする相手は、アランかキアラしかいないということも。
 もっと言うなら、アランだった場合はレジーがアランのせいにするので、隠すということはキアラだと察したらしい。
 さすが伊達に幼い頃から傍にいただけある。

 最後にはキアラと一緒に頭を下げて謝った。
 ……さすがにこれはキアラに見られて恰好が悪いなと思ったが、キアラはメイベルに謝るのに忙しくて気にしていなかったようだった。

コメント

書籍を読んでからここへたどり着きました。続き楽しみに待ってます。
この2人のやり取りに思わずニヤニヤしながら読んでます(笑)
あっぴい  [ 2015/10/10 02:45 ]
コメントありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
次の番外編の続きっぽいSSは来週あたりを予定しております。

佐谷 詞子 さん

コメントうれしいです! まだご本が到着していないとのこと。
おまけが先行してしまい申し訳ないですっ。
そしてご購入ありがとうございます♪
生暖かい応援をもらったレジーが、そもそもどうしてこんなことになっているのか、後日ぜひ書籍の方でご確認いただければと思います!


ちろ さん

コメントありがとうございます!
キアラ寝言多すぎですよねw
出会いの馬車でも生クリームだのとしゃべっている子なので、
わりに寝言がうるさいタイプなんだろうと思いまして、こんなことにw
人の寝言って楽しいですよねー。支離滅裂だったりして。
実はアランは書店さんのSSで書いてしまいまして(汗)
カインの寝言verについては番外編が絡まなさそうなので、
そのうち本編の方にSSを忍び込ませたいと思います!


えるりん さん
コメント、そしてご購入ありがとうございます♪
電子って便利ですよね。そして少し安いのもいいですねw
美しい表紙を楽しんでいただけて嬉しいです!
中身も色々と挿絵を入れていただいたので、じっくり見ていただければ幸いです!
奏多  [ 2015/10/01 21:10 ]

電子書籍で読みたいのでブックウォーカーにリクエストしとくー。と思ったら!あった!なんて親切な!毎度リクエスト手間だし遅いしで煩わしかったんだー今回はらっきーいぃ♪
表紙かっこいいなぁ
えるりん  [ 2015/09/30 20:13 ]
キアラ、寝言が多すぎ(笑)
レジー、よく耐えたよ!あ、でもわたしも我慢するかな?もっと聞いてみたいから♪
これ、アランやカインならどんな反応するのかなぁ~( ̄ー+ ̄)フッ
ちろ  [ 2015/09/30 01:38 ]
頑張るんだよ、レジー。 と生暖かく応援したくなりました。
私の地元は、発売日から1週間後くらいにしか手に入れることができないので、今は指折り数えて楽しみに待っているところです。
花詠 詞子  [ 2015/09/29 22:45 ]
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