書籍御礼SS-EX2

2015年 10月09日 (金) 21:05

読んで下さっている皆さまありがとうございます。
以下に書籍の御礼ショートストーリーの2を掲載します。
時系列的には、キアラがエヴラール城へ来て少し経った頃のことです。
書籍掲載の番外編を読まないと、やや訳がわからない部分があるかと思います。
その旨をご留意いただけますようお願いいたします。



◇書籍御礼ショートストーリー 2

「やっぱり足が寒かったせいだと思うのよ」
 ついレジーの部屋の方があったかくて、しかも寝台が離れがたいほどほかほかしてて……離れられなかったのは、全て足が冷たくなったせいだ。そうに違いない。

 メイベルさんにお叱りを頂いた私は、その原因を足の寒さと分析した。
 そこで私は、急いで冬用の内履きを作ることにした。
 とにかく温かく! を目的に、手芸の達人マイヤさんから皮底の内履きと、綿を分けてもらう。

 底の部分にも綿を詰め、それでは飽き足らずに上や横も綿を入れてキルティングした。
 雪が降る頃には足首も冷えるからと、ロールアップできる形に布と綿をつぎ込んで改造した。
 そうして私専用の内履き靴が完成した。

 夜など部屋の中や建物の中だけしか動き回らない時にはこれで万全! と自信満々だった。
 ベアトリス夫人に見せたら「履いてみせてちょうだいキアラ」と言われ、履けばにっこり微笑んで言われた。

「まぁ可愛らしいわね。小さな子が、大人の靴を履いてるみたいで素敵」
「う……」

 自分でも、見た目を犠牲にした自覚はあった。
 しかし寒さには代えられない。防寒能力は抜群なのだから。
 どうせスカートは足首が隠れるぐらい長いのだから、誰も見るまい。そう考えた私は、靴を元のものに履きなおして、手に持って自室に帰ろうとしたのだが。
 廊下で、レジーとアランに出会ってしまった。

「それ何だ? 熊の足みたいな靴だな」

 遠慮のない評価を口にしたのはアランだ。
 せっかく作った靴になんてことを!? と思ったが、いやいや、アランは元からこんな人だったし、と思って私は怒りを抑える。

「え、まさかキアラの靴……だよね? どこの雪山に履いて行くの?」

 しかしレジーにまでこんな評価をされ、あげく笑いが堪え切れないとばかりに肩をふるわせる姿を見て、私はむっとした。
 この靴を作った発端は、レジーにもある。
 なのにメイベルさんに怒られ慣れているのか、レジーは悩んだ様子もなく、ひょうひょうとした態度で実に腹立たしい。

 これは強制的に履かせなければ、と私は決意した。
 だから私は、再びマイヤさんの元へ突撃した。

「レジーとアランの足のサイズをご存じですか?」

 レジーは毎年のようにエヴラールに来ているので、代えの衣服などをこの城に置きっぱなしにしている。
 であれば、管理しているだろうマイヤさん達なら、二人のサイズも知っていると思ったのだ。

「何に必要なの?」
「……殿下とアラン様にも、ぜひ同じものを作ってあげたいと思いまして」
 と言って私作成の内履きを見せる。

「あら、久々に可愛い二人が見られそうでいいわね、それ」
 マイヤさんと一緒にいたクラーラさんが、満面の笑みを浮かべた。

「そうでしょうそうでしょう。なので、二人の靴を貸してもらえたら、サイズを測れるので助かるんです」
 お願いします、と言ったのだが、乗り気なマイヤさんがとんでもない提案をしてきた。

「あの年齢の男の子って、すぐ背丈も足のサイズも変わっちゃうのよね。だから今現在の足のサイズを測るべきではない?」
「え、でもそれって難しくないですか?」

 靴を新調するからと言って、靴職人でも呼ぶのだろうか。
 だって私が測りたいなんて言ったら、絶対拒否される。アランは騙せても、レジーは何かを察して逃亡するだろう。
 しかしマイヤさん達はいい手を知っているのか、自信満々だった。

「大丈夫、良い方法がありますよキアラさん。ね、クラーラ」
「そうねマイヤ」
 サイズを知りたい私は、にこにこと笑う彼女達に従うことにした。

 まず朝早く起きるように指示される。
 地平線から空が紫に、青にと塗り替えられていく早朝。マイヤさんとクラーラさんは、茶色の粘土を入れた盥を運んできた。

「夜更かしした時のアラン様、寝起きが悪いんですのよ」

 だからバレないのだと、堂々と部屋の中に入り込み、いつもアランが靴を置いている場所に盥を設置した。
 ちなみに前日、遊戯盤を出してお菓子を用意してと、アランとレジーに夜更かしをそそのかしたのはクラーラさんだった。

 そうして部屋を出て二時間後。
 ベアトリス夫人の日課につきあった後、館の中から凄まじい叫び声が聞こえて来た。

「何かしら? マイヤ、見て来てちょうだい」
 とベアトリス夫人に言われたマイヤさんは、喜々として迷わずアランの部屋へ飛んで行く。私を連れて。

「マイヤ、またお前か!!」
 出迎えたまだ寝間着姿のアランは、顔を両手で覆って天井を仰いでいた。

「そろそろ背がまた伸びて、靴も作り直しが必要かと思いまして」
「だから町の靴屋を呼べって言ってるだろぉぉ!?」
「本当に大きさが変わったか確認しないで呼んで、結局まだ必要ないとわかったら、靴屋に空振りさせてしまいますもの。靴屋が可哀想ではありませんか」

 にこにこと、マイヤさんは予め用意していた、水が入った盥を差し出す。
 アランはぐったりとした顔で、粘土桶からそちらに移動して足を浸ける。

「もう、後は自分でやる……」

 何を言っても無駄だと諦めているのか、アランはマイヤさんから拭う布を受け取ると、疲れた表情で足の粘土を落とし始める。

「では失礼致します」
 笑顔のままマイヤさんは粘土入りの盥を持ち、私を連れて退出した。

「マイヤさん……毎回こんな測り方してたんですか?」
「一度魔が差して足裏をくすぐってから、私達には採寸させて下さらなくなったので」

 これがアランの足採寸のデフォルトらしいと知って、ちょっとだけアランに同情した朝だった。

 次にマイヤさん達は、なぜか私に昼食の早食いを命じた。
 マイヤさんとクラーラさんに遅れないよう、なんとかパンを口に詰め込んだ私を連れた二人は、階段を上がってきた者にとっては陰になるだろう、廊下の壁にぴったりと寄り沿うように隠れる。

「さ、ここで待ち伏せしましょう」
「レジナルド殿下は、もっと率直にお願いしませんとね」

 二人はそううなずきあうと、私に言うべき台詞を教え、マイヤさん達が隠れているのとは反対側の壁近くで、階段を上がってきたレジーに見えるよう立っていろと指示してくる。
 よくわからないので言う通りにしていると、昼食を終えたレジーがグロウルさんやフェリックスさん。そしてウェントワースさんを連れて上がってきた。

「殿下、少しお時間を頂きたいのですが」

 マイヤさん達に言われた通りレジーに言うと、彼は私の方を向いて立ち止まってくれる。
 次に私はグロウルさん達に「少し離れていて下さいます?」と頼んだ。
 グロウルさんとウェントワースさんは首を傾げ、フェリックスさんはなぜかにやりとしながら、数歩レジーから離れた。

「どうかしたの……っ!?」

 レジーが私に尋ねた瞬間のことだった。
 背後から飛び出してきたクラーラさんが、がっちりとレジーを捕獲。
 そんなレジーの足を、マイヤさんが持ち上げた! え、持ち上げたあああっ!?
 さすが力持ちなところを、スカウトされただけある。とか考えている場合じゃなかった。

「今よキアラ! 早く!」

 正直逃げたかった。
 だけどクラーラさんに名前を呼ばれて、二人にここまでさせては、逃げるわけにもいかない。
 泣く泣くレジーの靴を片方引っこ抜く。

 その間にも、後ろにいるグロウルさんは呆然とし、一緒にいたフェリックスさんはひーひー言いながらうずくまって笑っている。
 ウェントワースさんは魂が抜けたように無表情だったが、目が明後日の方向を向いたまま小刻みに泳いでいた。
 私は無我夢中でレジーの足のサイズを片方だけ測り、もう一度靴を履かせて……その場で土下座した。

「ごめんなさいぃぃぃ!」

 マイヤさんとクラーラさんがレジーを降ろした。
 レジーは自分の足で立ち直した後も、数秒ほど驚いたように目を丸くしていたが、やがて怖い笑みを浮かべた。

「キアラ、そんなに私の素足が触りたかったら、頼んでくれたらいくらでもそうしてあげたのに」
 快く受けてあげたよ、という優しいレジーの言葉に、私はほっとした。

「お、怒ってません?」
「怒ってないよ。たまにマイヤとクラーラが腕にものを言わせてくるのは、よくあるからね」

 どうやらクラーラさん達は、何かあるとアランやレジーを持ち上げて移動させ、ということをしていたようだ。
 もう少し小さい時には、右から左へ投げて受け渡されたこともあるとか。
 それを知っていたから、グロウルさん達も笑ったり呆れたりするだけで済んだのだろう。

「でも、今の一瞬でちゃんと測れたのかな?」
 うっとりするような笑顔で言ったレジーは、廊下に膝をついた私の腕を掴む。

「もっとじっくり測ってもいいんだよ? だってもう片足が残ってるよ?」
「や、ちょっと、それはご遠慮させてくださ……うそおおおお!」

 両手を拘束され、レジーの部屋に引きずられて行く私を、マイヤさんとクラーラさんは、グッドラック! と握った右手の親指だけを立てて見送る。
 グロウルさん達は、まだ呆然自失から立ち直らず。フェリックスさんはその場にうずくまって大笑いしていた。

 その後? さんざん泣きそうになりながら謝って、レジーには「他の男性にそんなことしないようにね」と注意されて解放された。

 さて、妙な苦労をした末に、私はなんとか二人分の内履きを作った。
 もうやめようかなと思ったのだけど、マイヤさんとクラーラさんに協力してもらった以上、最後まで完遂しなくてはと、気力を絞りだすようにして作ったのだ。

 あげく進捗を覗きに来たマイヤさんによって、私の靴にはなかった、ひらひらとしたレースやらリボンがつけられ、なんだかごてごてしいことになってしまったが、き、気にしない。

 作ったのだから目的の相手に装着させねばならない。
 しかしレジーは「君が履かせてくれるなら」という、とんでもない要求をしてきたので不可能だった。

 アランは押し付けて逃げようとした現場に居合わせたベアトリス夫人に「履いて見せてアラン!」と喜ばれてしまい、履かざるをえなくなり。
 アランだけが、罰ゲームを受けたような形になってしまったのだった。
 正直済まんかった、アラン。
 でもちょっと可愛かったのは内緒だ。

 ……しかしこれには後日談が発生した。

 自分一人が酷い目に遭ったと思ったアランは、騙しにくいレジーではなく、ウェントワースさんに白羽の矢を立てた。

「ちょっ、アラン様! なんで人の靴を全て隠してこんなものを履かせようなんてするんですか! 待ちなさいっ!」
「本気で怒るなよウェントワー……うわっ、ただのいたずらだろ!」

 どうやらアラン、件の内履きを置き、他の靴を奪って逃走するところを見つかったようだ。

「私の名誉に関わります! 何が悲しくて20になろうという男が、こんなものを……っ! だいたいなんで人の部屋に忍び込んでいるんですか!」

「忍び込んだのは僕だけじゃなく、マイヤとクラーラも……うげっ」
「画策したのは貴方でしょう! 今日と言う今日はお仕置きします!」

 いつもは兄弟のように仲が良い二人だったが、今日のウェントワースさんは悪魔のように凶悪な表情をしていた。
 靴を奪って逃げるアランを捕まえるために、そんな顔でひらひらの靴をやむなく履いているものだから、本当に、激しく違和感があった。

「あらかわいいこと」
「ね、似合うって言ったでしょう?」

 と、素早く逃げだしたいたずら好きの侍女二人は、空き部屋の扉のを少しだけ開けて、様子をのぞいていた。
 しかも、ウェントワースさんの靴をそれぞれ後ろ手に持っている。
 二人の後ろで私は、膝をついてウェントワースさんを拝むように謝罪するしかなかった。
 そのくらい、ものすごく似合っていなかったのだ。

 ……心の傷にならないといいな。

コメント

皆様読んで下さってありがとうございます!

納涼わんこ さん

いつも見守ってくださってありがとうございます♪
コメントうれしいです!


和 さん

コメントありがとうございます!
私も熊スリッパを冬に愛用してました~。ゴジラも可愛いですよね。
そして「お見合い」の件お問い合わせありがとうございます♪
公的なアナウンスはちょっと待ってねと先方から言われておりますので、
こっそりと……削除はない予定でございます。


カセイ さん

コメントありがとうございます!
動物の足スリッパ可愛いですよね! 男性が履いても可愛いと思うんですよ。
階段は確かに苦労しましたー。
見えにくいのと、大きいので段に足先がつっかかりそうになるんですよね。
でも可愛いなぁと今でも思っております。


佐谷 詞子 さん

コメントとゲット報告ありがとうございます!
お手に取って下さって本当に嬉しい♪
そして番外編やSSを楽しんでいただけて、頑張った甲斐が……!
レジーがいい性格をしていながら、結局キアラに振り回されてるあたりが、
作者的には書いていて楽しいです♪
また続きも楽しんでいただければ幸いです!
奏多  [ 2015/10/12 00:22 ]
やっとでお話が繋がりました(*´∀`)
遅ればせながら、書籍もゲットできました。
なんか、ますます、レジーのイイ性格っぷりにウフフなのです。
花詠 詞子  [ 2015/10/11 17:20 ]
私も履いてましたよ、動物の足スリッパ。

あれ、階段の上り下りがしにくいんですよね~。特に下りるときが怖かった…。落ちそうで…。
カセイ  [ 2015/10/10 20:38 ]
ゴジラの足スリッパ、一時期流行りましたよね。(他の動物の足シリーズも)最近見ないなあ。


ところで、『お見合い』も書籍化されるようですが、本文削除とかは?
 [ 2015/10/10 07:29 ]
お疲れ様なのです
納涼わんこ  [ 2015/10/09 21:46 ]
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