「私は敵になりません!」2巻書籍購入御礼SS

2016年 01月29日 (金) 21:50

作品を読んで下さっている皆さまありがとうございます。
本日「私は敵になりません!」2巻の発売日となります!
つきましては予告しておりました、書籍購入者御礼用のショートストーリーを掲載します。
書籍掲載の番外編を読まないと、訳がわからない部分がある造りになっております。
その旨をご留意いただけますようお願いいたします。
上手く筆が滑ったら、もう1パターンSSを後日掲載するかもです。
それではお楽しみ頂ければ幸いです。

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SS 彼女が眠ったその後で

「キアラさん……眠ってしまいましたか?」

 馬を歩ませてまもなく、キアラの頭がかくり、かくりと船をこぎはじめた。
 カインは尋ねながらキアラの肩を引く。すると何の抵抗もなく、彼女の体は後ろに倒れてカインに寄りかかる体勢になる。

 少し仰のいたキアラは、完全に目を閉じてすぅすぅと寝息を立ててしまっていた。
 うっかりするとそのまま転がり落ちそうな気がして抱えるが、それでもキアラは起きない。

「……そんなに安心されるのも困る気がするんですが。貴方は女の子でしょうに」

 自宅のソファでうたた寝するようなことをされると、カインとしても少々不安を覚える。無防備過ぎではないか、と。
 一方で家族のように気を許しているのだと思えば、少しだけくすぐったい感覚が心の奥底を撫でる。
 例えるなら、可愛い仔犬が日向ぼっこをしているのを見るような。そんな感覚に近い。
 そんなに自分の側がいいのかと、微笑ましくなる気がするのだ。

 けれどカインとしては、最も側にいて彼女を守る立場からすると注意したくなるし、もう一つの個人的な観点から言うと、触れてどんな反応をするのか知りたくなる。
 そこへ、ふいに声がかけられた。

「そんなにうちの弟子がいいんかいのぅ」

 いつもは眠っているかのように黙っているキアラの師匠、ホレスだ。
 造りとしては土人形と同じで、キアラの魔力が通っているので落としてもすぐ壊れるというわけではないのだが、キアラはいつも心配してホレスを連れ歩く。
 カインとしては、まるで不安な子供がぬいぐるみを抱きしめたまま、あちこち歩くようなものだなと思っている。

 ホレスはなまじいつも傍にいるからなのか、キアラが恥ずかしがるような場面にも遭遇するからなのか、何もしゃべらない聞こえない人形のふりをしていることが多い。
 しかし今はキアラが眠っているからか、カインに突っ込んだ話をしてくる。

「しかしお前たち、本当によく似たことをしてくれる」
「たち、ですか?」

 尋ねたカインにホレスが「ああそうだとも」と応じた。

「王子とお前さん……あの黒髪の坊主も入れて三人じゃな。まぁ見事に三兄弟という感じで仲が良いもんじゃの。ウッヒッヒッヒ」

 しかも、とホレスがつけ加える。

「特にお前さんと王子は、女の趣味まで同じとはな」

 言われたカインが肩をすくめて見せる。

「……趣味が同じとは到底思えませんが」
「そうかいのー?」
「どちらかと言うなら、私の趣味からするとキアラさんはやや幼いですから」
「意外に厳しいことを言うのぅ」

 そんな感想を漏らしながらも、ホレスはケッケッケと笑う。

「だからか、なおさら手が出せんのは」
「出されるのはお嫌でしょうに」

 ホレスのきわどい質問を、カインはすかさず打ち返す。

「わしゃ、弟子の個人的なことには踏みこむ気はないからの。ただ目に余り過ぎるのと、弟子の気持ちに関係なくというのは勘弁してもらいたいもんじゃの。ぐずぐず悩み出したら、その被害を一番被るのはわしじゃからな」

 面倒じゃからのーと言うホレスに、カインが苦笑いする。
 そんなことを言いながらも、ホレスは十分キアラを気遣っている。時々こうして、刺しているのかはっきりとわからないながらも、釘らしきものをカインにちらちらと見せつけるのは、そういう意味だろう。

「キアラさんは……可哀想になってしまうんですよ。必死で、やりたいことのために我慢をして。小さな女の子が泣きながら人を殺すのを見たら、それを仕事にしている身にしても、そんなにも頑張る必要はないと言いたくなるものですよ」
「だから弟子にかまうのかいな?」

 追及されて、カインはさてどうしようと考えた。
 可哀想だからやりたいことを見守って、手伝おうとした。
 レジナルドに意見もした。
 ただカイン自身の中にも矛盾がある。――戦おうとする時の勇敢さに、心打たれたのも本当のことだったから。
 そのせいで、彼女は保護すべき年下の少女という認識から、時々逸脱するのだと思う。

「私としては、少し頑固なところの方が魅力的だと思っていますよ。気の毒なこともありますが、戦っている時のキアラさんは子供のようには見えませんから。そんな回答でいかがですかね、保護者としては」
「ふん」

 ホレスは鼻息らしきもので、微妙な不満を織り交ぜて返事を誤魔化した。

「むしろ私としては、殿下はホレスさんに似た意見をお持ちのように思いますね」
「あの王子がか?」

 嫌そうな声に、カインは笑いそうになる。

「殿下は、彼女が可哀想だと思ったから、側にいたいわけではないんだと思いますよ。それこそ、殿下が幼い頃に気にしていた犬のように」
「お前さん達の昔話の話か」

 そこでホレスは、生きている人間のようにふっとため息をつく。

「殿下は、興味が湧くとじっと観察するような所がありますから。子犬が自分で動けたなら、それも黙って見ていたでしょう。ただ相手が嫌がったらどうしようかと、そんなことを思うから、変なところで抱き上げ方を気にしてしまうのでしょう。だから……キアラさんのことも、ただ見ているだけなのか、と」

 言葉の最後は、カインも自信がゆらぐ。
 レジナルドがキアラに執着を感じているのはわかっている。特別なつながりを感じ合っているのも。
 けれど普通なら、自分に近しい者だからこそ傷つけたくなくて、エヴラールに何としてでも置いて行く方法を考えただろう。
 キアラが拒絶するからだろうか? それだけではないようにも思える。
 わからなくて、カインはつい尋ねてしまう。

「ホレスさんなら、わかるのではないですか?」

 ホレスの接し方は、どこかレジナルドに近い。だから理解できるのかと思ったのだが、土人形の中に魂だけ封じられて生き続ける老人は、ヒョッヒョッヒョと笑った。

「さてのぉ……。ただ想像するところによると、変えたくないのだろ」
「変える?」
「ウヒヒヒ。わしが弟子に入れ知恵したら、お前さんも弟子のことを扱いにくくなるだろうて」

 そうしてキアラが笑い声で目を覚ますまで、ホレスは笑い続けたのだった。

コメント

ぽか さん

コメントありがとうございます!
師匠を褒めて頂けて嬉しいです♪
なにせご高齢で酸いも甘いも噛み分けてきた師匠でございます。
師匠の謎に包まれた昔のことについてもいろいろ設定しておりますw
もうしばらくしたら本編でネタとして出せるかと思いますので、読んで答え合わせなどしていただけるようにしたいと思います!
奏多  [ 2016/02/01 22:23 ]
ssありがとうございます!師匠はいつも影で良い仕事してますね!さぞかし、若い頃は、モてたんでしょうね、っていう感じがします。
ぽか  [ 2016/01/31 11:34 ]
納涼わんこ さん

コメントありがとうございます!
がんばっていきますので、よろしくお願いします♪
奏多  [ 2016/01/30 22:15 ]
お疲れ様なのです
納涼わんこ  [ 2016/01/29 22:09 ]
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