「私は敵になりません!」2巻書籍購入御礼SS 2

2016年 02月06日 (土) 20:01

いつも作品を読んで下さる皆さま、ありがとうございます。
予告しておりました、「私は敵になりません!」2巻の御礼SSの二つ目を掲載いたします。
このSSは、書籍の番外編に関わるお話ですので、そちらを読んでいないと少々わかりにくいことになっていると思います。
ちなみに今回は番外編の、麻袋の話に関わる昔話です。
アランが9歳、カインが13歳頃になります。
楽しんでいただけましたら幸いでございます。

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番外編SS2

 それを知ったのは、早馬での連絡よりも早かった。
 城壁の上にいたアランは、国境の壁に接する砦から立ち上る狼煙を見たからだ。
 でも先に気づいたのはウェントワースだった。

「あれは……」

 見上げたウェントワースは、そのまま呆然としたように目を見開いている。
 13という年の割に、老成した感じがするウェントワースが、そんな風に驚くのは珍しいことだった。
 彼に首根っこを掴まれていたアランは、一体何なのかと振り返って同じものを見つけた。

「国境の狼煙ってことは、侵略か!? 父上、父上に知らせてくるっ!」

 アランは力が抜けていたウェントワースの手から抜け出し、逃げるために登っていた城壁の上を駆け出した。
 自分が行かなくとも、他の兵士が知らせに行っているだろうことはわかっている。けれど戦うのか、それならいつどう出るのか、自分は連れて行ってもらえるのかを、いち早く知りたかったのだ。

 そのため、ウェントワースが狼煙を見つめたまま動かなかったことにも気づかないまま、アランは父のいる城内の館に駆け込もうとした。

「アラン!」

 手前でアランを見つけたのは、母ベアトリスだった。
 腰に剣を下げ、革の胸あてまで装備したベアトリスは城周辺の巡回の帰りだったのだろう。

「一体何をそんなに慌てているのです。あなたは少々落ち着きが足りないと、いつも……」

 ベアトリスの言葉を止めさせたのは、鳴らされた城の警鐘の音だ。

「狼煙が上がってたんだ。国境の砦から!」
「国境……ルアインね」

 ベアトリスは苦虫を噛み潰したような表情をして、アランに言った。

「アラン、父上には私が知らせて来ます。あなたはウェントワースと一緒にいること」
「母上、戦うなら僕も出る!」
「バカを言うのではありません。状況がわからないうちから、後継ぎの貴方を出せるものですか。父上から指示があるまで大人しくしていなさい」

 ここで母の言いつけを破れば、後で酷い目に遭うことはアランも学習している。
 だから仕方なくウェントワースの側に……と思って気づく。
 さっきまで一緒にいたのに、ウェントワースは一緒に城壁から降りてこなかったのだろうか。

 不思議に思いながら、アランは来た道を戻ってみることにした。
 けれどその途中、城壁の下で、目的の人と予想外の状況を見つける。

「だめだウェントワース! これから辺境伯閣下が出るだろう。その時にお前がアラン様の側にいなくてどうするんだ?」
「まだ見習いでしかない私の代わりは他にもいるだろう。チェスター、お前がいれば十分だ」

 どこかへ立ち去ろうとしているウェントワースの腕を掴んでいるのは、くすんだ金の髪に鼻先にそばかすが残るチェスターだ。
 一年前にアランに仕える見習い騎士になったが、エヴラールの分家筋の出身なので自然とウェントワースに次ぐ発言力を持つようになった。
 かといって偉ぶらない気さくな男なので、アランも悪ふざけをするのにちょうどいい相手として遊ぶことがよくあるのだが。

「俺じゃあの悪ガキを止められるわけがないだろ、お前以上に好戦的なんだからなアラン様は。だからお前が見張っていないと」
「お前にだって十分止められるだろう。だけど母と弟には、探しに行くような人間に代わりがいない。せめて安否ぐらいは確認したっていいだろう!」

「だけどお前、さっき二人とも国境近くにいるって……」
「戻っているかもしれない。だから私は行く!」

 走り去るウェントワースに、チェスターが困ったようにため息をつきつつも、それ以上止めに行くことはしなかった。見逃すつもりなんだろう。
 アランは、見てはいけないものを見てしまった……と思った。
 そしてウェントワースがいる場所とは違う方向へ駆け出し、かなり離れた場所へ行ってから素知らぬ顔で兵士に尋ねた。

「ウェントワースを見かけなかったか?」
「こちらには来ていないと思いましたが……」

 困ったように返事をする兵士に「ならいい」と答えて、アランは別な者に同じ問いを向けた。
 こうして離れた場所から少しずつ探していけば、さっきの場所へ行くまでに時間がかかる。
 その間に……ウェントワースもきっと、戻っている。
 家族の無事も確認して、心が落ち着いているだろう。
 そうしたら……あんな酷い表情のウェントワースを見なくても済むのではないかとアランは考えたのだった。

 しかしこの時、アランも相当動揺していたのだろう。
 ウェントワースの自宅は城下にあるけれど、ウェントワースの家族は国境近くへ行っていると聞いていたのではなかったか。
 今攻撃を受けているという狼煙が上がったばかりの状況の、国境に。

 そこまで思い至らずに歩き回っているうちに、周囲を行き来する人々の表情も歩く速さも、向かう場所も変わっていく。
 ルアインが、という単語も聞こえたので、間違いなくルアインが国境を侵略してきたのだとわかった。
 そこでウェントワースを見かけた場所に戻ってしまい、自分を探していたらしいチェスターとも再会する。

「アラン様、ここにいましたか」

 ほっとした表情のチェスターに、アランはつい尋ねてしまった。

「ウェントワースは戻って来られたのか?」
「…………」

 チェスターからいつもの陽気な雰囲気が空気に溶けるように消えて行く。

「まだです。……家族が国境の砦近くに行っているようで」
「そうか」

 きっとそこまでウェントワースは向かったのだろう。
 帰ってくるだろうか、とアランは不安になる。
 逃げてきた人の中に、家族を見つけられればいい。けれど戦闘が始まっている場所にいるとわかったら、見つけ出すまで戻ってこないのではないか。

「辺境伯閣下からは、城の中で待機しているようにと伝言がありましたよ」
「うん」
 アランが歩き回っている間に、チェスターはアランの父に指示を仰ぎに行って来たのだろう。

「どうしても戦場へ出たいと駄々をこねたら、後でこちらが整然と打って出られるようになってからだと、伝えるように言われてます」
「そうか……」

 チェスターもやけに大人しい自分の様子に、思う所があったのだろう。
 しばらく二人で黙り込んだ後、

「ここで座ってますか?」

 と言われて、中庭に面した階段の端に並んで座った。

 ……ウェントワースは、一時間近く経ってから戻ってきた。
 彼はいつものやや乏しい表情に戻っていた。
 あんなにいつも面白みがないと言っておきながら、普段通りのそれが、アランを思った以上に安心させてくれた。

 けれど一緒にいたチェスターに小さな声で「国境に近づけなかった……」とつぶやくように言うのが聞こえた。
 ウェントワースは、結局家族の消息を知ることができなかったのだ。

 こういう時、何と言えばいいのか。アランは思いつかない。
 大丈夫だと安易に言ってもいいものか。きっと逃げていると適当なことを言って、期待させた後で違っていたとわかったら、ウェントワースは余計に苦しむのではないだろうか。
 迷った末にアランの口から出たのは、自分のことだった。

「母上が、お前の側にいろって」
「そうでしたか。他には?」
「僕はまだ外に出せないって言ってた」

 うなずいたウェントワースやチェスターと共に、アランはしばらくそこにいた。

 そんなアランが戦場へ出たのは、ルアインが国境の砦を占領したものの、エヴラールの攻撃に戦況が膠着して一か月が経った頃だ。
 国王が援軍を率いてきたため、ファルジア側が有利になったからだ。
 しかしルアインを国境から退け、ウェントワースが改めて国境付近で家族を探すことができるまで、さらに二週間もの時間を必要としたのだった。

コメント

杉崎遥 さん

コメント&感想ありがとうございます!
師匠にしびれて下さってありがとうございます!
しかもようやく考えていた設定を出せた話でしたので、とても嬉しいです。
年を重ねた分だけ、若造どもには負けません。
しかも干物老人の姿から可愛い土偶にチェンジしてますので向かう所敵なしです。
今後の師匠も楽しんでいただければ幸いです!
奏多  [ 2016/03/07 12:12 ]
初めてコメントします
師匠が時々男前すぎてしびれてます(笑)<今176話
杉崎遥  [ 2016/03/07 11:11 ]
佐谷 詞子 さん

コメント、そしてご購入ありがとうございます!
いつも発売日周辺は怯えて暮らしているので、ご報告いただけて嬉しいです。
web版も不安にさせるような内容&タイトルが続いてしまいました……。
今後の展開的に、どうしてもこんな感じになりまして。
もしかすると二巻を読んでいた方は一連の別離タイトルの話で怯えてしまうかもしれない…とも思っておりました。
某さんの死亡フラグ?と想像するような話がちょろっと入ってしまいましたので。
また続きも楽しんでいただけるようがんばりたいと思います!
奏多  [ 2016/02/18 21:10 ]
やっとで時間ができて、二巻を購入&読むことができました。
Web版のほうは、いったい、どんな別離かと
思って読んでいて、、二転三転したのが、良かったです。
花詠 詞子  [ 2016/02/15 22:43 ]
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