編集 「私は敵になりません!」5巻書籍購入御礼SS

2017年 02月24日 (金) 22:05

いつも読んで下さってありがとうございます!
本日「私は敵になりません!」5巻目の発売日となりますので、書籍番外編関連のその後話のSSを掲載いたします。
番外編を読んでいない方には、ちょっとわかりにくいかもしれません。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
今回は師匠のホレス視点です!

◇◇◇


 サレハルドとルアインの連合軍を倒し、デルフィオンの城に戻る途中のことじゃった。

「師匠、なんかしたいこととかあります?」

 弟子のキアラがそんな質問をしてきた。
 弟子は同じことをたまに聞いてくる。あれじゃのう、娘だからか細かいことが気になるのかもしれん。

 最初の頃は、いつも助けられているからお礼がしたいんだと言っておったか。
 人として存在していないから、熱くも寒さに震えることもないし、腹が空いて暴れたくなることもないというのに、何か少しでも気分よく過ごせるようにしたいと思ってしまうんじゃろうな。

 あまりにしつこいので、時々はちょっとだけ興味のあったことを口にしたりもしておった。
 今日も、いつも通りのつもりで答えた。

「そうだのぅ。たまには王様のように扱われてみたいもんじゃの、ヒッヒッヒ。あとは金銀財宝に埋もれてみたいのぅ。どうせ持っててもわしには使えんから、埋もれるだけになりそうじゃがな」
「王様のように……」

 弟子はなぜか考え込んで、それから何かを思いついたように満面の笑みを見せた。

「教えてくれてありがとうございます!」

 答えはそれだけだ。
 だからさして気にも留めなかったのじゃが……。デルフィオンの城に戻って二日後、唐突にあのきらきらした王子がやってきおった。

「ホレスさん、出かけませんか?」

 誘われたわしは、顔をしかめられないのが非情に残念じゃった。

「なんでわしが、王子と出かける必要があるんじゃ?」
「キアラが、ホレスさんが出かけたそうだから連れ出して欲しいって頼んできたんですよ」
「ほぁっ!?」

 何を考えとるんじゃあの娘は……。それをなぜ王子に頼んだ?

「いや別にだな……」
「気分転換にもいいじゃないですか。たまには私につき合ってくださいよ、ホレスさん」

 そう言って、王子はわしをひょいと持ち上げて連れて行ってしまう。
 小さな人形の身で、それに抵抗する術はない……。

 元々、この王子はさわやかそうな顔と物言いをしておきながら、強引なんじゃ。弟子を誘う手口だってたいていはそうなんじゃ。
 弟子の方も、結局は流されてついて行く。本心じゃ尻尾を振って賛同したいんじゃろうが、迷惑じゃないかとか変なことを考える奴じゃから、弟子にはこの対応で丁度いいのかもしれんが……。

 うぬぅ。
 そうこうしているうちに外へ出てしまった。
 しかしこの王子も、フードを被って護衛を数人連れた上、行き先にも兵を配置してまで外へ出るとは……何をしに行くんじゃろ?

 弟子と合流して、遊ぶ予定でもなかったらしい。
 しかも視察と言いながら、やたらあちこち案内する。しかも町の人間の前で、

「魔術師様の師匠殿が、ご視察にいらしたのですよ」

 などと自分の騎士に言わせるのだ。
 おかげでデルフィオンを解放してくれてありがとうと、頭を下げて感謝されるはめになる。
 一番そう言われるべき王子は、わしを掲げるように持って周囲にも自分より上の扱いをさせ、満足げな表情をしておるのだ。
 なぜだ?

「気色悪いのぅ……」

 そうして城内の部屋に戻ってくると、今度は弟子が変なものを用意していた。

「ちょっとだけ借りて来たの。これで師匠のサイズでも入るかなって♪」

 テーブルの上に置かれていたのは、わしが寝かせられそうな大きさのバスケットに、なみなみと入れられた金貨だった。
 弟子は笑顔のまま、無造作にわしを金貨の中に突っ込んだ。

「なんじゃこりゃああ!?」

 どういうことかと驚いていると、弟子がきょとんとした顔をして言った。

「ほら、今朝師匠に何したい? って聞いたら、王様扱いされて金銀に埋もれてみたいって言ってたでしょ?」
「な……ななっ!」

 あれのことか! しかし時には冗談を言っておったし、弟子もそういうものは真に受けなかったというのに、なぜ今回はこんなことになっとる!
 しかし自分が言ったことには違わない。

「師匠には私がサレハルドから助けられてから、色々気を遣わせたりしたなって思って。だからお返しをしたかったの」
「お返し……」

 呆然としていると、王子が変な気を利かせた。

「金貨は軍資金用のものを借りて来ただけなので、気にしないでくださいホレスさん。私が後で返却しに行くので」
「お、おう……」

 王子が自分で返しに行くとか。軍資金を管理してたやつは、さぞかし困惑するじゃろうの……。
 他人に同情をしたところで、少し冷静になってきたのだが、そこで弟子が王子に言う。

「レジー協力してくれてありがとう。お返しは何をしたらいいかな?」

 王様扱いの分は、王子を動かす代わりに、弟子が何かをすることを約束していたらしい。
 いや、ちょっと待て弟子。この王子のことだ、ろくなことはせんぞ!
 しかし止める間もなく、王子が爽やかに微笑んで言う。

「キアラにしてほしいことは考えてあるんだ。手を出して」

 弟子は何をするのだろうと不思議がりながらも、素直に手を差し出す。

「本当は君にしてほしいことはこれじゃないんだけど、新しいものを選んだりしている余裕が無いし、どうせならもっと良い物を選別したいからね。代わりに、覚えていて欲しくて」
「何……を!?」

 弟子の尋ねる声が、不自然に途切れる。
 差し出した手を掴み上げた王子が、その薬指にやんわりと噛みついたからだ。

「れっ、れれれれレジー!?」
「次に代わりの指輪をあげるってことを、キアラにしっかりと覚えておいて欲しくて。これなら忘れないだろう?」

 やたらと嬉しそうな表情をする王子の前で、弟子が絶句していた。
 でもそのうち恥ずかしそうに下を向いて、「うん……」などと言い出す。
 おいこら! お前たちわしが一緒にいるんだからな! 無視して勝手に甘い空気を作りおって!

「次に頼む時は、絶対に目の前でいちゃつくな、にしてやる……」

 唸るようにつぶやけば、王子が腹を抱えて笑い出した。
 不満だ! どうしてわしがこんな目に!


※番外編にて、師匠にとても感謝する出来事があったキアラが、お返しをしようとしたのでこうなりました!

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