特別SS その2

2017年 01月01日 (日) 17:11

 あけましておめでとうございます。
 2017年になりましたねー。
 まだまだ透明なパイプの中を車が走るような世界にはなっていませんけど(←想像が古い)、人間が車を運転しなくてもよくなる時代は本当に間もなく来そうで、うわー未来だよーって感じです。
 ということで(?)、今年もよろしくお願いしますねー。

 ではここで書籍1巻の、メロンブックスさん用に書き下ろした特典SSを公開いたします。


 基本的に原文そのまま、フォーマットだけをこっちに合わせております。
 こちらは「書籍版の裏話」というコンセプトで書いているため、書籍版をお読みになっていないと少し分かりにくいかもしれません。
 でも、単純に「乳児編の閑話」的なものとお考えいただければと思います。
(書籍版はお読みになったけど、このSSは知らなかったという方は……コレでニヤニヤなさってくださいw)


 一部、こっちでも明かしていない裏設定が混じってますけど……。
 ま、いっかー。(’▽’)




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☆第6.5話(書籍版) とある一家の一日の、裏側




 少しずつ暖かくなり、庭の緑も鮮やかさを増してきたこの頃。
 今日はあいにくと小雨が降っていて気温も下がっているけれど、私は時間通り、家のことを近所の子に任せてやってきた。
 いつ見ても、立派な邸宅――だけど見慣れた外観を軽く見渡し、特に問題がないことを確認してから玄関の扉を叩く。

「おはようございます」

 やや大きめの声で呼びかけると、程なくして紺色のメイド服を着こなした女の子が中から扉を開けてくれた。

「おはようございます、アナさん。今日もよろしくお願いします」

「ええ、おはよう。こちらこそ」

 私と同じ少し釣り目気味な瞳に、優しい光を宿すマール。 晴れ空のようなしっぽ髪を揺らす彼女に、私も笑って挨拶(あいさつ)を返す。

「ところで、旦那(だんな)様は――」

 私とは違い、出勤時間の不規則な旦那様の事を聞こうとしたその時、奥へと伸びる廊下にある手前から二つ目の扉が開き、まさにその本人が出てきた。

「旦那様、おはようございます。いってらっしゃいませ」

「……ああ、アナさん。おはようございます」

 頭を下げて挨拶すると、旦那様も帽子のつばを軽く摘んで挨拶してくださった。 今からご出勤だという事は、服装を見ればすぐに分かる。

「よろしくお願いします。マールもな」

 彼はこちらに近づいてくると、恐らくは剣を取りに行くため、横にある階段を上っていく。
 私とマールは揃(そろ)って「はい」と返事し、若き旦那様を見送った。


 玄関でマールに雨具を預け、台所で手洗いとうがいを済ませてから、マールとチャロ――もう一人の小さなメイドの娘(こ)が使っている部屋で、私も同じ服に着替える。
 それから部屋を出ると、ちょうど旦那様の出てきた子供部屋からセフィ――奥様が出てきたところだった。

「おはよう、アナ~♪」

「ええ、おはよう……」

 可愛らしい笑みを浮かべる年下の奥様に私も笑みを返しながら、今日も内心で溜め息をつく。
 チャロは、まだ子供だから良い。 マールも、全体的に線の細い子だから良い。
 でも……この娘(こ)の腰周りの細さは、いつ見てもなんと羨(うらや)ましい! 出産、しかも双子を産んで半年も経っていないというのに、その細さは反則だ。
 身長も胸も、それほど私と変わらないというのに。
 これが……若さ。なのかしらねえ……。

「アナ?」

「……何でもないわ」

 可愛らしく小首を傾げる奥様に、私は心の中でもう一度だけ溜め息をついた。



 ――私の仕事は、多岐に渡る。

「マール。 ジャス様とセーレ様のお部屋に行って、片付けついでに様子を見てきてくれる?」

「はいっ♪」

 台所で昼のおやつと夕食の支度を同時に進めながら、マールに指示を出す。 マールは手を洗って綺麗に拭いてから、嬉しそうに後ろ髪を揺らして出ていった。

「チャロはこのお鍋を見ていて。弱火でたまに混ぜるだけだから。 いい?」

「はーい!」

 鍋の番は、魔力の多いチャロに任せる。 チャロは猫系のしっぽと耳をピンと立て、体中にやる気をみなぎらせて私の隣に立った。
 私が経験から学んだ家事のアレコレを、二人に……時には奥様にもお教えするのが、私の主な仕事だ。 三人共それなりに経験はある事は知っているけれど、私から見ればまだまだだ。
 特にチャロは経験が浅い上、うっかりな所があるから、しっかりと仕込んであげないと。

「ふんっ、ふんっ」

「……」

 お立ち台に上って、おたまでぐりぐりと鍋を混ぜ始めたチャロの肩に手を置き、余計な力を抜かせる。
 それから、先に淹れて温くしておいたお茶をお盆に載せ、二階の部屋に持っていく。 ノックをして入ると、セフィは大きなベッドの上でお腹に毛布を掛け、足を伸ばしてした。
 私は小さなテーブルにお盆を置き、ベッドに近寄る。

「ねえアナ、私も何か――」

「いいから、寝ていなさい」

 十以上も年下とはいえ、雇い主である奥様に対する言葉遣いではないけれど、ここは友人として声をかける。

「あなた……少し、調子悪いでしょう?」

「……」

 ベッドの端に腰を下ろしてセフィの目を覗(のぞ)き込むと、観念したようにゆっくりと息を吐いた。
 最近はかなり良くなってきたとは言っていたけれど……気温が急に変わったりするとダメになると白状させた事を、私は忘れていない。

「さっきまでは、本当に良かったのだけど~」

「だったら、なおさら寝ていなさい」

「……アナったら、ママみたいね~」

「はいはい」

 可愛らしい顔をして意外と強情なんだから……この娘のお母さんも、さぞ苦労したでしょうに。
 二児の母親になったとはいえ、この娘もまだまだ目が離せないわねえ。

「別に、たまにでいいから」

「……はいー」

 台所へ戻ると、ひたすらに鍋を混ぜ続けていたチャロを一旦鍋から遠ざける。 あーあ、少し具材が崩れていたわね……。
 まあ、それはそれでスープに味がよく染みるから良いんだけど。

「マールはまだ?」

「えっ? ……あ、そういえばー」

 残念そうに耳と尻尾(しっぽ)をしおれさせていたチャロが顔を上げる。 私が戻る頃にはあの子も戻って来ていると思っていたのに、まだジャス様とセーレ様の部屋にいるようだ。
 お二人共、ビックリするくらいに大人しくて可愛い子達だから、ずっと見ていたい気持ちは分かるけれど……仕方ないわね。

「また離れるから、よろしくね」

「はいっ♪」

 あの子にも頼みたい仕事があるから、自分で呼びに行く事にする。
 ついでに軽く炒めるだけの浅鍋も任せて、早足で台所を後にした。

「ああっ、なんて可愛い……♪」

「……」

 思った通りだった。

 ベッドで歌うように声を上げるお子様達を見つめ、マールはうっとりとした顔をしていた。 タンスの中身を整理していたのか、畳(たた)みかけの服を胸に抱いて。
 ……まあ確かに、私も少しだけ見惚(みと)れちゃったから仕方ないんだけど。

「マール?」

「へっ? ……あ、ああっ!?」

 私が呼びかけるとマールは慌てて立ち上がり、ぺこぺこと頭を下げ始める。

「アナさん、すみません、すみません……」

「ええ、もう良いから」

 家事を一通りこなせる所もセフィに負けていないけど……お子様達の可愛がりっぷりでも、良い勝負よねぇ。 ……良い母親になれそう。
 そう思って笑みを漏らしながら、私が用事を頼もうとした所――。

「あああーーーーなああああーーーーーーさあああああーーーーーーーんっ!」

 おたまを持ったままのチャロが、ものすごい勢いで部屋に駆け込んできた。

「あ、アナさーんっ!! ○※◆〒(≧▽≦)――」

「はあぁ……チャロ、落ち着いて」

 もしか――しなくても、炒め過ぎたんでしょうね。 思っていたより、戻るのが遅れたみたい。
 だけど、ちゃんと火を止めてきたのなら大丈夫――。

「――!?」
「ああっ!?」

 はっとした顔で見つめ合う、私とマール。開いたままの扉から、うっすらと焦げ臭い匂いが……。
 私とマールは大慌(あわ)てで、チャロの背中を押して部屋を飛び出した。


「……はい、おしまい」

 今日も慌ただしい一日が終わり、元々薄暗かった窓の外が更に暗くなってきた。
 回復したらしいセフィには食事の支度(したく)の残りを任せ、私は帰る前にジャス様とセーレ様にお乳をあげた。
 おむつが湿っていたので、ついでに交換も。

「またね」

 本当は、私ももう少しお二人と遊んであげたいところだけど……あまり帰りが遅くなるのは良くない。 雨がやんでいる内(うち)に帰らないと。
 可愛い笑顔を見せてくれるお二人に、さよならのキスを――しないことにして、私は頭を撫(な)でるだけにした。
 あまり懐かれ過ぎると、私が帰る度(たび)に悲しい思いをさせてしまうもの。
 なのに……。

「あーぃ」
「きゃあ~ん」

「……」

 背中を向けた私を見送ってくれるような声に、むしろ私の方がキュンとさせられてしまった。



 ――明かりが必要になりそうなほどに暗くなってきたため、濡(ぬ)れた石畳の道を少し足早に歩いていると。

「ああ、今お帰りですか?」

「あ……」

 見回りの方かと思っていたら、前から歩いてきたのはセフィの旦那様だった。
 立ち止まり、お互いに「お疲れ様」と声を掛け合う。

「こんなに暗くなっていますから、お送りしましょう」

「いえ――」
「いえ、お送りします」

 暗い中でも疲労の色が見える彼に遠慮しようとしたものの、そこまでキッパリと言われてしまうと何も言い返せなくなる。
 この辺りの治安はかなり良いとは言っても、やっぱり少しは不安もあったしね……。

「ありがとう」

 ほっとしながらお礼を言ったけれど、隣に立った彼は静かに微笑んだだけだった。
 セフィ達の前では、情けない所もよく見せる彼だけど……こういう時は格好良いわね。

「――そうですか」

 二人で歩きながら、彼に報告も兼ねて今日の出来事を話す。
 セフィの体調がやや優れなかった事に眉をひそめた彼だったけれど、昼には持ち直した事と、帰り際にジャス君とセーレちゃんが私に「バイバイ」してくれた事を話すと、格好良く緩んだ口元がだらしなくなった。

「ははは……帰ったら、二人を褒(ほ)めてやらないとなぁ」

「ふふふ……」

 端から見ると、だらしなく見える笑顔。 けれどそれも、彼が良い父親だという何よりの証だ。
 そろそろ私の家も近くなり、特に話題のなくなった私は静かに足を進める。 一方の彼は、何をして子供達を褒めてあげようかと、緩んだ顔のままアレだコレだと一人で呟いている。
 その横顔に苦笑していると、また彼が私に話しかけてきた。

「……そう言えば」

「何?」


「少し前に、二人に『高い高い』をしてやったんですが……それからジャスだけが、何故かよく俺の頭を叩こうとしてくるようになったんですよ。
 何故なんでしょう?」


「……」

 いくら私でも、そこまでは分らないわよ……。

「さあ、頭皮の刺激でもしてくれているんじゃない?」

「は、はあ」

 自宅の前に着き、私はお礼と一緒に適当な思い付きを口にした。

「俺って、そんな風に見えるのか……?」

 彼は私の家の前で、自分の帽子を叩きながら首を傾(かし)げていた。

コメント

リソ君がいれば「ふらぁぁーぃ?」と続いてくれる気がする
みい  [ 2017/01/07 21:44 ]
そういえば、ハゲの心配してたっけwww

かわいいな~でも、お爺ちゃんがあの元気MAXの師匠だから…そこまで老後の後退は気にしなくてもよさそうだケド苦笑
ゅぃ  [ 2017/01/07 15:40 ]
 お年玉、頂きました。

 ジャスの頭叩き? と思ったが、アレのことですね。 私だったら、頭にゴミが乗っていたか、アホ毛が気になったかと思うかな? と言うのは、依然公園を横切っているときに、小鳥が私の頭を掠めて何往復かしていることに気づいたんです。何かと頭を手探って思い至ったのが、その日慌ただしくてろくにブラシを当てられず、幾束か薄のようにハネていたんです。それを、餌か何かと思って啄もうとしたのではないかなと。後にも先にも不思議な体験でした。
 普通の子は、頭が薄いんじゃとか思わないよな。旦那は兎も角、アナさんはそう思わない気がする。寧ろ、埃でも乗っていて、ジャスが取って食べようとしてたのではと思って欲しいかな? 小さい子は、口に含んで、味や感触など確かめようとしますからね。おしゃぶりがその行為で、下手なモノを含まないように気を付けないといけない時期でしたか?
詠月寂夜  [ 2017/01/01 23:52 ]
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