2017年10月15日 (日) 19:02
『小説投稿サイトでランキング一位を取らないと出られない部屋』
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面白かったです。物語としても、創作論としても。
今書き続けている人へのエールとして、とても暖かいものがありました。
それは、作家『理不尽な孫の手』の小説愛でもあるんだけど、彼が思う「作家とは何か」みたいな部分がその裏側にあって、それは、作家という前に、ネガティブな部分も含めた一人の人間として語るんだ、という感覚があったと思う。
そこにおいて、作家として成長することで人としても成長するエンディングは、慎ましくもじんわりとした余韻に満ちていた。
とはいえ、才能のない人間の醜さは、ほどほどで留めているし、ラストの気づきからの大逆転は、奇跡みたいなご都合主義そのものでもある。
ただし、才能なき人間の生き様を、情熱的に描いたという意味で、そこに真実があると思ったし、この作品の肝はそこにあると思った。
彼は最後に、己自身に向き合って、戦ったのだから。
つまり、作家なんて存在せず、そこにあるのは一人の生身の人間なのだ、と、その血肉をもった語り部として、己と読者が共有できる物語世界を、あるロマンでもって文字の中に実在化させるのだ、と。 それはある意味、楽園の創造でもある。
そして読者は、言葉の中に、作者の体温を感じた。
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とはいえ、芸術や美にのめり込んで破滅する人々は普通にいるし、よりリアリズムを追求するならば、そこに陥らない創作との向き合い方みたいなモノも、示す必要があると思いました。
というのは、苦みもありはしましたが、全体としては、溺れるような、甘い夢のような物語だったからです。