2015年01月23日 (金) 06:51
予告していた
「オオカミ騎士の捕虜になりました」のSSです。
カナタとリサ&グエンの子供セナのお話。
カナタ視点のため、本編にいれられずこちらになりました。本編から二年とちょっとが過ぎた後なので、ネタバレは満載です。
あの後、リサとグエンはラザフォード領で過ごしてます。
カナタも一緒。ユーリと呼ぶと騎士団の皆が混乱するので、リサは「カナタ」と呼ぶようになってます。
シスコン&ブラコン&ヤンデレ&トラブルメーカーな上、フラグっぽいの立ててますが今の所続きません。それでもよければどうそ!
◆カナタとセナ◆
「かなちゃ、かなちゃ!」
足元にくるくると子犬がじゃれつく。
いっそ踏んでやろうかと思うほどに邪魔。
大体ボクは、『かなちゃ』じゃなくて『カナタ』だというのに。
そんな風にしてたらぶつかるよと思ってたら、案の定。
落ち着きのない子犬はテーブルの足に頭をぶつけて、コロコロと転がり涙目になった。
「うーっ」
「全く、仕方ないな」
抱き上げてやれば、ボクの腕の中で泣きはじめる。
「かなちゃぁ……」
「本当、セナはカナタが大好きよね。おかげで安心して預けられる。この城の騎士たちだと、セナを潰してしまいそうだし」
リサ姉はそれを微笑ましそうに眺める。
「任せてよリサ姉。リサ姉が料理つくってる間、セナの面倒はボクが見るから!」
うざったいなんて態度に出さず笑って請け負えば、リサ姉は信頼しきった様子でお願いねと言ってきた。
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「かなちゃ! あそぶ!」
ベッドに座ったボクの足元で、小さな犬っころは元気いっぱいだ。
紺色の瞳をキラキラと輝かせ見上げてくる。
「勝手に一人で遊んでよ」
不機嫌な声でそう言えば、意味がわからないというように犬っころは首を傾げる。しっぽをぱたぱたと振ったまま。
本当に面倒だ。
何でボクがアイツの子供の面倒なんか見なくちゃいけないの。
この犬っころは、リサ姉とグエンとかいう男の子供で名前はセナ。
グエンとかいう男は狼人で、その血を継いだセナも狼に変身できるみたいだった。
セナは灰銀色の毛皮に、紺の瞳。
グエンとかいうやつと全く同じ見た目の狼で、大きさは小型犬くらい。
現在は二歳なのだけれど、人間姿よりも狼姿の方が動けるからか、ずっとこの姿のままだ。
相手してくれなくて暇だったのか、ボクの体をよじ登って遊びはじめている。
――なんでリサ姉はグエンとこいつを大切にするんだろう。
無邪気な顔で当然のようにリサ姉から愛情を貰っているセナに、苛立ちを覚える。
ここからすれば異世界――ニホンに生まれたボクには、前世の記憶があった。
リサ姉の義妹として幸せに過ごした日々。その後魔術兵器として生きて、そして現在いるこの国で宰相をしていた記憶。
ニホンにいた時は、もう二度とこの世界に戻ることはないと思っていて。
けど偶然にも召喚され、大好きなリサ姉に再会することができた。
今度こそリサ姉と幸せに暮らせると思ったのに、リサ姉の隣にはグエンとかいう男がいて。
裏から手をまわして排除して、ボクがリサ姉の隣に落ち着こうと考えたのだけど。
前世のボクを知るヤイチが邪魔をしたせいで、その計画は上手くいかなかった。
――まぁ、諦めたわけじゃないけどね。
今はグエンに、リサ姉の側を譲ってあげてるだけだ。
リサ姉が大切にするのは、ボクと兄さんだけでいい。
昔のボクなら、問答無用で闇に葬っているところだけれど。
それをしないのは、一つ前の前世で兄さんに言われた言葉のせいだ。
「俺が大切なら、俺の大切なものも大切にすると誓え」
兄さんが大切にしていたものを消そうとしたボクに、兄さんはそう言った。
だから今のとこそれを守ってる。それだけの話だ。
ボクは、兄さんの大切なものはボクとリサ姉だけでいいと思ってる。
けど、色々あって死に別れて、再会した兄さんにはたくさんの仲間がいて。
それがもの凄く気に食わなくて。
まぁ色々やらかしたのだ。
結局兄さんはボク以外の誰かのために、旅に出てしまって。
一つ前の前世のボクは、兄さんが帰ってくるまで罰として、今いるウェザリオとかいう国を守ることになった。
結局その約束は果たされなくて、ボクは途中で死んでしまったのだけれど。
兄さん自身も未だこの国に帰ってきていないようだった。
兄さんはボクと同じ、英霊(えいれい)あがりのトキビトで、この世界で歳をとることはない。
まだ生きて旅をしているとしても、帰ってくるのが遅すぎる。
つまりは死んで、きっとニホンの方に生まれ変わってしまったんだろう。
この世界で死んだ人は何故か、あちらに生まれ変わってしまうようだから。
それなら話は簡単なのだ。
ボクが兄さんをこっちに呼びもどしてあげればいい。
呼び出すための媒体はないけど、兄さんとボクは双子だったから魂の繋がりを辿れば、きっと召喚できるはずだ。
幸いこのラザフォード領には神殿がある。
リサ姉が英霊を呼び出す魔術陣を破壊してしまったけれど、そもそもあれは――。
「ちょっとセナ! 何してんの!」
ボクの顔の前に、セナが落ちてきた。
背中からよじ登って、頭を経由してきたようだ。
乱暴に首根っこを摘んで投げると、くるっとまわって床に着地した。
楽しかったのかまた登ってくる。
もう一度投げれば、余計に喜ばせてしまったみたいだった。
セナがいると考えごとすら満足にできない。
とりあえずは、兄さんを呼び出せるほどに魔力を蓄えて計画はそれからだ。
準備に短くて30年、長くて50年くらい掛かるかもしれないけど、まぁどうにかなる。
こっちは何回も生まれ変わって、二人と過ごせる日を夢みてきたのだから今更それくらい構わない。
兄さんを呼び出せたら。
リサ姉も一緒に三人だけで暮らそう。
それを考えるだけで楽しくなる。
二人はそれを望まないかもしれないけれど、それがボクにとっても二人にとっても本来の幸せなのだ。
兄さんもリサ姉も、記憶を楽しかったあの時に戻してあげればいい。
前にグエンが掛かった魔術から察するに、神殿にあった魔術陣を解析すればそれもきっと可能だ。
そうすれば二人とも怒ったり悲しんだりすることなく、ボクを見てくれる。
ボクは二人さえいれば何もいらないのに、二人の一番は別の人なんて……そんなのは嫌だ。
大切な人の一番でいたい。それだけなのに、どうしていつだって上手くいかないんだろう。
グエンを消して、邪魔するならヤイチも消して。
二人に必要のないものは、全部消し去ってしまえばいい。
「かなちゃ、なく?」
気づけばボクの膝の上にセナがいて、こっちを見上げていた。
「……なんでボクが泣かなきゃいけないの。セナみたいな泣き虫と一緒にしないでよ」
頭を押さえつけるようにぐりぐりと撫でてやれば、嬉しそうにセナはしっぽを振る。
「かなちゃ!」
「だから、カナタだって言ってるのに」
発音しづらいのか、いくら言ってもセナはボクの名前を覚えない。
「セナ、かなちゃすき!」
すりすりとボクの体に頬を擦り付けて。
甘えながらセナはそんなことを言ってくる。
「……カナタだってば」
溜息交じりにそういいながら、セナを両手で抱き上げる。
純粋でまじりっけのない瞳でボクを見つめていた。
まぁでも。
リサ姉でも、あのグエンでもなく。
生まれて一番最初に、ボクの名前を呼ぼうとしたことだけは、セナを褒めてやってもいい。
――こいつくらいは、残してやっておいてもいいかな。
そんなことを思えば。
冷たく冷え切った心に仄かなあかりが灯った気がした。
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読んでいただきありがとうございました!
セナの前世がお兄さん……その発想はなかったですね!
そして性別が男か女か。あまり考えてなかったなぁ……とりあえず「かなちゃ」って呼ばせたかった(*ノωノ)
娘にした方が、グエンの反応が超楽しそうだなとは思いますね。
絶対カナタには渡さないと張り合って、おままごと対決とかありそうじゃないですか(笑)
読んでくれて嬉しかったです! コメントありがとうございますね!!