2016年冬ー北海道札幌市。
将来を見出だせず生きることに絶望した田中雅司(29歳)は、最良の選択肢として創成川で投身自殺を図った。
自殺にいたる過程のなかで雅司は「もし生まれ変わることかできるとするならば、もっとマシな人間になりたい」との願いを膨らませていた。
自分の人生は落伍者そのものであった。次に生まれ変われたならば自分のような人生はなんとしても歩んでほしくはない。
そのような願いを新しい命に託した雅司はこれまでの過去を悔いるかのようにその生涯を閉じることになった。
翌2017年春ー北海道大学附属病院産婦人科。雪も解けて春の暖かさもましたこの頃、一人の女の子が産声をあげた。
涼花(すずか)と名づけられたその女の子の視線には、生まれたその日から雅司の幽霊そのものがはっきりと見えているではないか。
雅司は生まれたばかりのその小さな命に自分がたどってきた人生を歩んでほしくない。
いやこの娘なら絶対に自らの人生を己の力で切り開いていくことができる。
そう確信した雅司は、涼花を見守りつつも時にはパートナーに徹していくことに希望を見いだすのであった。