高宮古葉夢は喋らない高校生だった。
勘違いしてもらっては困るので予防線を引いておくと、喋れないのではなく喋らないのだ。より厳密に表現するならば、コミュニケーションの破棄を彼はしているわけである。
そんな彼の様子を健気にも塚原佐里は心配しているらしく、彼女に協力を頼まれて、僕こと柵メリサは、古葉夢を喋れるようにしてやるための作戦をあれこれ行使する羽目になったわけだ。羽目になったなどとまるで僕が嫌々につき合っているかのように誤解されてしまうかもしれないので、一応本音を吐露しておくと、僕は古葉夢を更正させるための、またとない機会を得たのである。
これは過去に進む彼を助けるための、極めて利己的な物語だ。