「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。
名家である久慈家。天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートするが、絵を描く事以外あまり興味がない色助は新生活を楽しむ。
釣った魚を居酒屋で買い取ってもらおうとのれんをくぐると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会い第六作を描くと心に誓う。
完璧な絵を描きながらも「未熟」とつぶやき画用紙を破り続ける天才。いつか、燦歌が聞こえると信じて。
「じゃあ師匠が今後破る絵を全て欲しいです!」
「うん。それはできない」
「ですよね!」
ある時からくっついてきた小学生、雫石望愛と共に作品に向き合っていく。
そして高価な値段で売買される彼の絵画を心待ちにする者達の陰謀。
久慈の序列を持つ色助を妬む者。
同じ絵描きとして頂きを目指すライバル。
久慈色助。雅号、燦歌彩月(さんかあやつき)
知ってか知らずか、燦歌彩月の興味は第六作に注がれる。
一手届かず、と嘆く天才が求めるその正体はなんなのか?
作品と向き合う事。
もっと描く。もっともっと描く。
見る。考える。想像する。もっともっと……。
0.9999999....と続くのはまるで決して交わることのない漸近線(ぜんきんせん)
想いは技術を凌駕する。それを信じて彼は描き続ける。
「色助が楽しそうに歌ってくれたから。だから私は楽しく演奏できたんだよ」
言わせんなよ、ばーーーかと、舌を出す彼女はとても魅力的で、心を奪われた。
「――そうか」
(そうか。これが答えか――)
バカだ――バカすぎる。
心を奪われた相手に抱くのは憧れと尊敬と、少しばかりの妬み。
何故心を奪う側が自分ではないのかと、そんな黒い嫉妬も掻き消す圧倒的な愛、もとい熱量にボクは焼かれた。
かっこいい。なんてかっこいいんだ。
「けどね――」
ボクだってかっこいいんだよ。
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