春のにおいがする。
春の暖かな陽射しのもと、道端に咲いているような小さな花のにおい。
穏やかな風が桜を揺らし、ひらひらと桜を散らす春のにおい。
しかしここは図書館で近くに桜などない。
暖かな春のにおいをかいだ、穏やかな春の風も感じたのに私は駅前の図書館で本を読んでいた。
私の近くには学生らしき子や一緒に来た後輩しかいない、そのはずなのだ、そのはずなのに、穏やかで暖かな春を感じるのだ。
しかしそのときの私にはそれが何だったのかを知ることはできなかった。しばらくして学生や後輩は暗くなる前に帰っていった。そして今私しかいない図書館では、春を感じることはできなかった。
そのとき私は二年生だった……