作品一覧全2件
短編
外では人達の怒号が鳴り響き 盾と矛が煌めく 血と汗と埃が舞う まひるの太陽を烟らす すべての父は狼とのとっ組み合いに敗れ 膝から崩れ落ちる ワタリ鴉は英雄たちの眼球と脳髄を挵り出す 大蛇は痛みに耐えかねて ぎりぎりと大地を締めつける ひび割れたその膣から 息子たちは勇み飛び出してくる 波濤の九人姉妹は憤怒に我を失い 恵みの穂を取り返しに来る 竜が翼を広げ 娘たちを攫っていく カーテンを降ろし 蝋燭を温もりとしよう 暗がりは貪り 衣擦れは震え 叢を押し開き 戦きを味わう 痛みは兆し 窓を叩く雨音と風は 悦びに遠のく 滴りを掬い取り 至上の香りを肌膚に刷り込もう 月は砕け星々が降って来る 夜に凍え、昼に焼きつくされる やがて世界は静寂に支配される そしてふたりは沈みゆくだろう
作品情報
ノンジャンル[ノンジャンル]
最終更新日:2011年02月23日
読了時間:約1分(311文字)
短編
(冒頭より抜粋) とうとう、学級で残っている生徒は菊池綾音と僕だけになってしまった。 きれいすぎる緑―――チョークの粉の波模様がない黒板を眺めていると、何だかミュージックビデオの中にいるみたいな気分になってくる。二人きりになっても、僕は教室左側の窓から2列目の1番前の席、菊池綾音は廊下側の端の列の後ろから2番目の席という、4月のクラス替え以来の席順で座っている。だから今でも彼女は振り返って見ないと何をしているのかわからないし、何を思っているのかは余計想像がつかない。2-1クラスの皆がどんどん減っていき、先生もいなくなっていっても、教室に来ている以上最後の一人になるまで、前と同じように勉強をしているふりだけでもしていなければならないような気がしていた。残ったのが秀才とされていた菊池ならなおさらだ。僕は不意に担任でこの時間の古典を教えていた山下の興奮するとなおさら広がる大きな鼻の穴と、ドングリまなこ、汗でテカる額を振りながら定規と大声で重要な部分を指して僕たちに復唱させる姿を黒板の前に思い出し、懐かしいようで喉仏がキュッとなった。漢文の練習帳を繰ってみると、これが始まる前、授業中に眠気でうつらうつらしながら山下の目を盗んで端に描いた落書きが目に入る。山下がいなくなったのはいつぐらいだったか。まだ学級に半分は残っていたはずだ。
作品情報
ノンジャンル[ノンジャンル]
最終更新日:2010年12月03日
読了時間:約12分(5,736文字)