妻の代理で小学生の娘の授業参観に出向いた柴山進一郎は、偶然、一人の少女が学校のトイレで殺害されている現場に出くわす。柴山が抱き上げた少女の耳には玩具のイヤリングのようなものがこぼれ落ちる。やがてそのイヤリングから過去の痛ましい事件が浮かび上がる。そしてそこに若かりし妻が関与していたことが朧気に見えてくる。少女を殺したのは妻なのか? 妻はその目的のために柴山を意図的に学校へ行かせたのか?――これはサスペンスドラマの一幕である。いっぽう、ドラマ内部の殺人事件と並行して、現実世界にあっても柴山を演じる男が絡んだ殺人事件が進行している。彼には、役者としての強いこだわりがある。しかし彼の頑なな性格は、その活動の支障にもなっている。ドラマ内の殺人事件と現実世界の殺人事件が交錯する中、やがて双方の境界が往還しはじめる。何がフィクションで何がリアルなのか。そして、この物語を語っているのはいったい「誰」なのか。|ふたつの事件《・・・・・・》は入り乱れながら、決着へと作動する。