十数年前、湖のほとりの小さな町を騒然とさせる事件が起こった。
冬の夜、小学校高学年の男子が姿を消したのである。
翌日学校に来なかったために判明し、有志の人たちも巻き込み、空き家や森林を懸命に探したが、見つけることは出来なかった。
春を待ち、氷に閉ざされていた湖の捜索も行われたが、数ヶ月に及ぶ捜索の甲斐もなく、終にその身体が発見されることはなかった。
そして、捜索は打ち切られたのだった。
少年の捜索と並行し、警察による犯人探しも行われた。
少年が姿を消す数ヶ月前、母親が病で亡くなっており、その頃から父親の様子がおかしくなっていくのに近所の住人は気付いていた。
仕事に行っている様子はなく、ボサボサの髪に無精髭を生やし、何日も洗っていないような格好で、いつも酒に酔っていた。
心配して声を掛けることもあったらしいが、怒鳴り散らされ、いつしか誰も近寄らなくなっていた。
警察は真っ先に父親を疑ったが、正気の様子ではない男は事件に関することは何一つ話さず、目撃証言や確たる証拠もなく、逮捕までは至らなかった。
少年が姿を消してから半年ほど経ったある日、事態は急転した。
父親が一人で住んでいた家で火災が発生した。
周囲に被害はなかったが、全焼した一軒家からは一人の焼死体が発見された。
遺体とその周りの燃え方が激しく、灯油が撒かれていたことから、男の焼身自殺であると結論づけられた。
それから十数年経った今でも、未だに少年は見つかっておらず、真相は深い水底に沈んだままである--。
※カクヨム様にも掲載中
ハッピーエンド 幻想
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