轟轟と音を立てて渦巻く暗闇が日本の上空に訪れてから、日本に陽が昇る事は無くなった。
朝が訪れない暗闇の世界に放り込まれ、社会機能が失われた日本国民の間で拡散されたメッセージは、
「北へ逃げろ!日本は危ない!」
だった。
咲良の夫、健一はそんな状況下でもプライドを持った下町工場作業員として仕事をしに出掛ける。
そんな健一に、咲良が痛切に言う。
「一緒に北へ逃げよう。」
と。
2人は、あてもなく北へ向かって歩いた。
海を渡って、北朝鮮もしくはロシアもしくは中国、どこでもいいから北へ逃げようと、海に向かって歩く。
やっと辿り着いた海辺は、閑散としていて、船が訪れる気配も、人の気配も無かった。
落胆する2人であったが、一筋の希望が2人に注がれる。
海の向こうから、イカダが流れ着いてきたのだ。
2人は、イカダに乗って漂流する。
ここまで来た間に、持ってきた食糧はほとんど底をついた。
飲み水も無い。暗闇の中に雨が降ったら、天の恵みとばかりに、ペットボトルの蓋を開けて、酌んで蓄えた。
過酷な状況に置かれた中、
陸から海へ、海から陸へと逃げる2人の夫婦が辿り着いた先は、
異国の地であった。
漂流してきた2人の夫婦を手慣れた様子で介抱して施設内へと運んでくれた異国人のおばあさん。
おばあさんに案内された先にあったのは、
プールであった。
プールでは、
黙々と泳ぐ双子の姿が3組あった。
そして、咲良と健一も泳ぎ出す。
他の3組の双子と同様に、自分たちもそっくりな双子の様に見えているとは気付いていない1組の夫婦。双子の姿がそこにはあった。
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