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短編
時代は進んだ。思ったほどSFな世界はやって来なかった。 騒ぎまくった専門家を裏切って、地球温暖化の進行は大した事がなかった。地球は人類が考えるよりずっと強い生き物だった。 他の惑星に引っ越す事もなく、人間は未だ地球にしがみついている。 かつての首都東京は超巨大台風の猛威に落ちた。その時、政府は首都を奈良へ遷した。 それが僕の生まれた頃の事。 大手自動車メーカーが空を走る車を開発、発表した。だが、法律の壁に阻まれて実用化、販売はされず、結局車は道路をタイヤで走っている。 それが10年前。 家庭用ホログラム型モニター開発。映画の中の話だった代物が急激に普及した。 それが6年前。 そう、人類は技術分野においては、確かに目覚ましい進歩を遂げた。 崩壊した東京がどうなったかと言えば、その後勿論、復興した。しかし遷都により、人口は確実に減った。 地価は暴落。ドーナツ化現象とはなんだったのかと、東京のど真ん中に建売団地が乱立した。 今や台風前のビル群と台風後の住宅地が同居する、そんなアンバランスな都市が東京だった。 科学技術が発展した時代。その果てに合ったのは無神だった。 日本人の深層心理にあった深い深い土着的な宗教感すら、失われてしまった。神を畏れ、悟りを志す僧侶に敬意を払う。神の前で婚姻を近い、仏の前であの世への旅路に立つ。それは当たり前すぎて誰も気付かなかった深い信仰心だった。 一見、無神論に見えた日本人という人種は、深すぎる信仰心ゆえに表面的にそう見えていただけだった。かつては。 それが本当の無神論になったのはいつからだろう。技術を得ると共に、人は少しずつ、神を仏を生を死を、捨てていった。 神を畏れないという事の弊害は意外な形で現れた。犯罪の増加である。 罰当たり、という感覚を失った人々は善悪の区別を曖昧にし始めた。所詮、法律など人の心にその程度の存在だったのだ。 神には、叶わなかった。
作品情報
推理[文芸]
最終更新日:2018年05月27日
ミステリー サスペンス 近未来 シリアス 男主人公 未来 アンドロイド 読了時間:約54分(26,715文字)