ある広場で、青年は公園のベンチに座った。
空は澄み、目の前に広がる青々とした芝生の上を子どもたちが駆け回っていた。
今日はとびきりにピクニック日和で、そんな日の公園のベンチには、新聞を顔にかけて、のけぞって眠る男性がいるのは普通だろう。
青年と背中合わせのベンチで眠る男性も傍から見ればそれに違いなかった。
青年は本を片手で持ち、空いた片手で鮮やかに男性の尻ポケットに入った書類を抜き出した。
それを合図に、男性は今目覚めたかのように時計を確認し、足早にその場を立ち去る。
青年は数十分後に立ち上がり、ゆっくりと街の中心部に歩き出し、ついには人ごみに紛れて見えなくなった。
そのポケットには、乱雑に入れられた彼の仕事。
新聞の一面は…
『勇者失踪』
四作目「勇者は、勇者になるために。」
魔王討伐後の勇者たちの短編集です。