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短編
僕はクラスメイトのアーヤから、森に棲むマント姿の少女の噂話を聞く。その少女にお願いすれば、体の一部と引き換えに、どんな扉でも開けて貰えるのだという。僕はそんな話を信じていなかった。 パパがクリスマスの日にいなくなってから、もう1年が経とうとしていた。パパは入院している病院の住所から絵葉書を送ってくるだけで、ママはクリストフという太った銀行員と再婚しようとしていた。 ある日、僕とアーヤとダルコの三人で、森へ少女を探しに行くこととなった。ただの遊びだった。しかし僕は森で見てしまったんだ、少女が本当に存在していることを。勿論僕は逃げた。 家の中でどんどん居場所を失う僕。クリストフとの諍いをきっかけに、僕は森へ再び向かった。少女に扉を開けて貰うためだ。 「開けて欲しい扉があるんだ」と彼女に告げると、こくりと頷いてそのドアまでついてくるんだ。そして彼女は首から下げられた沢山の鍵の中から、そのドアが開く鍵を選び出す。精神病院からパパを連れ出すために、パパの部屋に辿り着くよう、少女にお願いして一つ一つ扉を開けて貰った。引き換えに僕は一本一本指を失い、彼女は奪ったその指を食べてしまった。 やっとパパに出会えたのだが、パパの両目は無くなっていた。あのクリスマスの日、職を失いお金の無いパパは、僕にTVゲームをプレゼントするために少女に頼んで、夜に忍び込んだおもちゃ屋の扉の鍵を開けて貰ったのだ。しかしパパは両目を奪われてしまい、そこから立ち去ることもできず、精神も崩壊したのだった。そしてパパは言う、「お前がこの少女と出会ったから悪いのだ」と。僕の幼い頃の記憶が、ゆっくりと蘇る。 僕は幼い頃、行方不明となり森で2日間この少女と過ごしていたのだ。僕を発見したパパは、その時から少女の言葉が存在が忘れられずに蝕まれていったのだった。 僕はパパからも逃げ、結果として指は二本だけになった。大人になった僕にはある計画がある。この勤務先の金庫の扉を開けて貰えれば、大金を得て町を出られるのではないだろうか。僕にはまだ指は二本ある。あの少女に会いに行くことを決心する。
作品情報
ホラー[文芸]
最終更新日:2018年10月31日
怪談 MBSラジオ短編賞1 読了時間:約38分(18,530文字)