『ここは乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢』
イザベルが思い出した前世の記憶と、現在の学園の状況を照らし合わせると、物語は既に半ばまで進んでいて、4人いる攻略対象のうちイザベルの婚約者を除く3人が、主人公に攻略されていた。
そして前世の記憶から、婚約者フランツがイザベルを愛していないことも、思い出してしまう。
そもそも彼は愛を知らない。
《難易度がおかしい乙女ゲーム》として有名になったそのゲームで、イザベルの婚約者フランツは主人公にとっても攻略不可能と言われる存在だ。
事実、この世界の主人公シーナは、まだ彼に接触もできていなかった。
でも、イザベルの中でどうしようもなく不安が募る。
それはシーナが、システム上不可能とされていたもう1つの逆ハーレムを構築していたから。
『どうして? この世界があの乙女ゲームなら、攻略できるのは1人だけのはずなのに……』
イザベルは致命的な部分で知識が足りないと痛感する。できることは限られていて、進む先は破滅とも自覚していた。それでも。
『フランツ様を渡したくない。シーナに接触しなければ』
イザベルは諦めたくなかった。
フランツを愛していたから。