人の呪詛と嫌忌を一身に受けながらも、ただひたすらに“生きる”ことを願った鬼がいた。深い暗闇に身を置きながら、その願いを胸に長い時を生き続けていた。その鬼は一人の少女と出会う。差し伸べられたその手を掴んだこと、「世界は美しい」と語るその少女の姿に魅せられたこと、世界を知ったこと。それが全ての始まりだった――。今ここに、その出会いと一つの終焉を記そう。

この世界は夢なのかもしれない。だとしたら、それは誰の夢だろうか。 悪夢だろうか。それとも幸福な夢だろうか。

静けさの支配する部屋で少女は何を思うのか。

それは人間ではない者。神とも悪魔とも異なった者。 そこは仮初の命の箱庭。運命の大樹が鎮座する箱庭。 それは何故、青年に目を与えたのか。 それは少女に何を見たのか。 これは彼らの日常から遠く離れた非日常。

狂気。それは激しく荒ぶるものだけを指すのではない。 狂人。それは世の中の枠から浮き出たものだけを指すのではない。 その青年の中には静謐たる狂気が満ちていた。

過去と未来、前世と来世を映す目を持つ青年と一人の少女の前に、青年を恩人と慕う男が現れる。これは彼らの新しい日常の形。

前世と来世、過去と未来を映す目を持つ青年。 彼はその目にのみ映る不可思議な存在を友と呼んだ。 そして、その口から語られるのは彼が常人の目には映らぬものを映す目を手にした過去だった。

少し奇妙な青年とその青年の隣に座る少女の日常。 彼の目に映るのは誰かの過去、未来、前世、来世。 彼女の目に映るのはなんてことない、けれども愛すべき空。 人間が繰り返すのは辛苦か、それとも幸せか……。

ただ平穏な日々を望む中学二年生の少年、村主 春彼（すぐり はるか）はある日、人間の精神に巣食うモノ、ネスターの襲撃を受ける。 春彼の命を奪おうと襲いかかるネスター。絶体絶命の窮地を救ったのは能力（スキル）を行使し、ネスターと戦う者、能力所有者（スキルオーナー）の少女、風音 柚姫（かざね ゆずき）と一羽の鷹だった。 この日を境に春彼の日常は常識の通用しない非日常へと変化していく。