枯れ木のような老人が枕元に立っていた。夢ではない。部屋の電気は付けてはいなかったが、私は眠ってはいなかった。老人はいきなり出現したのだ。だけど私はさほど驚かなかった。
窓から差し込む月明かりが老人の深い皺をさらに際立たせている。
「お前の手に入れた能力のことだ。あれは迂闊に使うものではない」
これまた、枯れ木のような風貌にぴったりの嗄れた声だった。だけど懐かしい声だった。恐らく私はこの老人を知っている。その存在に全く心当たりのないこの今にも死にそうな老人のことを。
日常 サスペンス シリアス 現代 ショート
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