それは、人間のための力でもなく、人生のための力でもなく、素晴らしき理想に満ちた力でもなかった。
破壊的で、忌わしく、人の手に負えないというだけの、暗い力だとさげすまれた。
――パロマノルテの街では、まれに、人が人ならぬ力をもって産まれることがある――
生まれながらに魂に刻まれるその力は、いつしかまっとうな人々に|呪い《マレフィシオ》と呼ばれるようになっていた。
アイトールはパロマノルテに暮らす呪い持ちの男で、依頼をうけての裏稼業で日々の生計をたてていた。
ところが、ある朝目覚めると、頼りにしていたはずの力――殺人人格が失われてしまっていることに気がつく。
呪いの力のなかに、深い暗部を溶かしこんだ街の中で、一転して狩られるものへと変わってしまったアイトールの日々が始まる。