作品一覧全15件
連載 123エピソード
 王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。  玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。  エリーゼ=アルセリア。  目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。 「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」 「……なぜ、ですか……?」  声が震える。  彼女の問いに、王子は冷然と答えた。 「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」 「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」 「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」  広間にざわめきが広がる。  ──すべて、仕組まれていたのだ。 「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」  必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。 「黙れ!」  シャルルの一喝が、広間に響き渡る。 「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」  広間は、再び深い静寂に沈んだ。 「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」  王子は、無慈悲に言葉を重ねた。 「国外追放を命じる」  その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。 「そ、そんな……!」  桃色の髪が広間に広がる。  必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。 「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」  シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。  まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。  なぜ。  なぜ、こんなことに──。  エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。  彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。  それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。 兵士たちが進み出る。  無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。 「離して、ください……っ」  必死に抵抗するも、力は弱い。。  誰も助けない。エリーゼは、見た。  カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。  ──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。  重い扉が開かれる。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15
最終更新日:2025年07月07日
ほのぼの 女主人公 西洋 中世 逆ハーレム 魔法 冒険 ハッピーエンド ダンジョン 剣聖 婚約破棄 国外追放 ざまあ 王子殿下 冤罪 読了時間:約425分(212,159文字)
連載 108エピソード
【カクヨムさんにも掲載中】 剣士ライン=キルトは、冒険者として名を馳せることを夢見て、血と汗と剣を捧げてきた。  幼い頃から剣を握り、パーティの中堅として名が通るようになったこの頃、ライン=キルトはようやく手応えを感じ始めていた。  ……その矢先だった。 「悪いけど、ここで終わりにしましょう、ライン。あなたには……未来がないもの」  恋人であり、仲間でもあった魔術師アイリスが、そう言い放った時、何を言われているのか理解できなかった。 「……どういう意味だ、それは」  アイリスは視線を逸らし、パーティのリーダーであるグレイが代わって口を開く。 「すまない、ライン。お前の剣の腕が信用できないわけじゃない。だが……今回、新たに加わることになった“彼”が条件を出してきたんだ」 「“彼”?」  聞き返すまでもない。今、貴族の道楽で冒険者を気取っている、あの男――リオネル=ダンバリー伯爵家の令息だ。  小手先の魔法と派手な装備を振りかざし、貧乏くさい冒険者の中でやたらと目立っていた。金とコネで危険な任務を避け、戦果だけを誇る男。  その男が言ったというのだ。「アイリスを専属魔導士にする。だが、あの“しがない剣士”とは縁を切ることが条件だ」と。 「私……選んだの。ごめんなさい、ライン」  目を伏せるアイリスの言葉に、ラインの胸は張り裂けそうになった。  何も言えず、何も聞こえず――店の扉を開け、ふらふらと外へ出た。  気がつけば、ギルドの前に立っていた。  まだ陽が高い。依頼掲示板の前に人だかりができている。  ラインは、呼吸を整えて掲示板に目をやった。これまで何度も挑んできたように――ひとりででも、やってやる。 「すみませんねえ、ラインさん。最近、伯爵家からの圧力がありまして……あなたに依頼を渡すのは、ちょっと……」  この街の冒険者ギルドでの依頼は受けられなくなっていた。  夕刻。人通りの少ない裏道。  貴族に歯向かえば、全てを失う。それが“この街”――貴族が支配する街の現実。  だが、だからこそ、ラインの中に燃え盛るものがあった。 「見ていろ、アイリス……ダンバリー……」  その時、ラインの中で何かが生まれた!それは、剣聖になる決意!  この時、剣聖ラインへの道が誕生した。  このまま終わってたまるか。  ここからラインの復讐劇が始まる。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月07日
ほのぼの 男主人公 西洋 中世 ハーレム チート 魔法 剣聖 王女 エルフ 聖女 ざまあ 英雄 追放 レベルアップ 読了時間:約375分(187,028文字)
連載 7エピソード
稲村菜々。二十七歳。どこにでもいる、ごく平凡なOLだった。 仕事はまあまあ、趣味は漫画と小説。特に、電車で読む“ざまぁ系”のWEB小説が好きだった。あの胸スカ展開、敵が断罪されていくカタルシスがたまらなくて、よく夜更かししていた。  その中でもお気に入りだったのが、『剣聖のカール』。  最初の設定では、平民の母を持つ男主人公・カールが、差別と陰謀に打ち勝ち、最強の剣聖として覚醒する復讐譚。  読んでてめっちゃスカッとするやつで、悪役令嬢のリリスがめちゃくちゃ嫌な女で、それがどんどん落ちぶれていくのが爽快で、よく電車の中で「ざまぁ!」って心の中で叫んでた。 ……なのに、どうしてそのリリスにわたしがなってんの!? 意味わかんないんですけど!!!  とにかく状況整理しよう。これが夢じゃないなら、わたしはもう、菜々じゃなくてリリスとして生きるしかないらしい。  しかも、今は―― 「……ラ・ロシェ伯爵のとこに嫁ぐ途中、だよね……」  そう、この馬車はリリスが“失脚したあと”、借金返済のために政略結婚させられるイベント直前だった。  相手は、五十七歳の初老の貴族。三度目の結婚で、前妻たちはすでに亡くなってるとかなんとか……。 「うわぁ……この先、地獄じゃん」  しかも、このあと、リリスは送られる途中で脱獄したダンガー子爵に助けられて、なぜか共犯者として再登場するという、悪役ポジションに返り咲く展開まである。  断罪エンド確定の未来。ぜっっったい嫌だ。  「ま、待って……ちょっとだけなら、やり直せるかも?」  そうだ、わたしはこの小説の展開を知ってる。カールが追放されて修行し、強くなって帰ってくることも。ラ・ロシェ伯爵の正体がとんでもないDV男だってことも。  リリスがあのダンガーとつるんだのは、追い詰められて絶望してたから。  なら――そこを回避すれば、断罪エンドを避けられるんじゃ?
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15
最終更新日:2025年07月07日
シリアス 女主人公 西洋 中世 魔法 冒険 ハッピーエンド グルメ 青春 ゲーム ダンジョン ファンタジー小説 子爵家 魔導書 ざまあ 読了時間:約25分(12,178文字)
連載 46エピソード
 【カクヨムさん掲載中】この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15
最終更新日:2025年07月07日
ほのぼの 女主人公 西洋 中世 職業もの チート 魔法 冒険 日常 ハッピーエンド グルメ 青春 ゲーム 音楽隊 旅行 読了時間:約163分(81,366文字)
連載 184エピソード
      【カクヨムさんにも投稿中】 カールは学園の卒業式を終え、心の中で晴れやかな気持ちを抱えていた。長年の努力が実を結び、婚約者リリスとの結婚式の日が近づいていたからだ。しかし、その期待は一瞬で裏切られた。 「カール、私たちの婚約は解消するわ。」 リリスの冷たい声がカールの耳に響いた。周囲の生徒たちがざわめく中、リリスは冷徹な目で彼を見つめ、婿養子先として選んだのは、他の家の美しい子爵家のダンガーだった。 カールはその瞬間、胸に重い衝撃を感じた。だが、それ以上に、心の中で何かが揺らぐのを感じた。自分は一体何者なのか、この世界のことはどうしても忘れられない、という感覚が、まるで記憶の底から押し寄せてきた。 そして、その瞬間、過去の記憶が一気に甦った。 「そうか…俺は過労で死んだんだ。」 彼は呟いた。過去の現代での生活、無理をして働き続けた結果、命を落としたこと。その死が、まさにこの世界への転生の原因であったのだと気づいた。 「今度こそ、無駄に死ぬわけにはいかない。」 カールは立ち上がり、婚約破棄の現実に打ちひしがれながらも、心の中で新たな決意を固めた。過去の無駄な労働に囚われることなく、この世界で新しい人生を生きるべきだと。 追放と新たな発見 カールの異世界での記憶が完全に戻ったことで、伯爵家からはさらに厳しい処遇が下された。追放されたカールは、家族との絆を完全に断たれ、辺境の村でひっそりと暮らすことを余儀なくされた。しかし、追放されることは、ある意味彼にとっての新しいチャンスだった。 「これで自由だ。」 カールは、冷徹に自分を追放した伯爵家に対して、怒りよりも安堵を感じていた。彼は異世界の知識を駆使して、どこででも生きていける自信を持っていたからだ。  いまこそ、カールの婚約破棄から始まる追放生活は始まろうとしていた。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月07日
ほのぼの 男主人公 西洋 中世 ハーレム チート 魔法 冒険 ハッピーエンド オリジナル戦記 春チャレンジ2025 剣聖 恋愛 マジックアイテム 読了時間:約603分(301,290文字)
連載 7エピソード
その日、俺――リオ=グランティスは、魔術師として人生最大の分岐点を迎えていた。 「お前さぁ、魔法って、なんかこう……地味じゃね?」  そう言い放ったのは、俺の師匠、アリステア=フェンブラム。  王都でも五指に入る魔術師なのに、なぜかいつも笑いながら無茶ばかり言ってくる変人である。  そして、俺は今、その変人の前で困り果てていた。 「師匠……何度も言ってますけど、魔法は繊細な術式構築と精神集中が――」 「いや違うって。お前の魔力さ、繊細に扱ったら逆に不安定になるんだよ」 「だからって剣で魔法を撃てって、無茶すぎません!?」  俺の手には、長剣。  本来なら剣士が使うはずのそれを、師匠は「杖の代わりに使え」と言い張ってきた。 「いいじゃん、剣で魔法撃つとか。浪漫!」 「師匠、それはロマンであって、理論じゃない……」  だけど、アリステア師匠は真剣な顔で言った。 「リオ、お前の魔力は普通じゃない。杖じゃ流しきれない。だから“出力制御”のためにあえて鉄を通せ。剣身が抵抗になって、魔力が安定する」 「……それ、学会で発表したら怒られるやつでは?」 「うん。だから発表してない。お前だけに教える、禁断の奥義だ」  禁断って自分で言ったなこの人。  でも――俺もわかっていた。  普通の魔法の打ち方では、俺の魔力は制御できない。  それでも諦めきれず、俺は魔術師を目指してきた。 「剣を杖に……か」  重みのある剣を両手で構える。  魔術師が扱うにはあまりに武骨で、不格好な代物。  だが、確かに手の中に収まるそれは、杖よりも――何かしっくり来る感触だった。 「いけるかもな……」  そして、次の瞬間―― 「《フレイム・ブラスト》!!」  俺は咄嗟に剣を振り下ろした。  ズガァァァァァン!!  周囲の地面が爆発四散した。  魔法が、剣から放たれた――それも、明らかに規格外の火力で。 「う、うそだろ……マジで撃てた……!」  剣の先から吹き出した火柱は、訓練場の模擬岩を余裕で粉砕していた。  それは、確かに“魔法”だった。 「……これ、魔術師として誤解されないですかね?」  俺は――“剣で魔法を撃つ魔術師”としてやっていく。  そしてこの選択が、後に王国中の魔術師や剣士、貴族や王族までも巻き込む大騒動になるとは――このときの俺はまだ、知る由もなかった。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15
最終更新日:2025年07月07日
ほのぼの 男主人公 西洋 中世 職業もの チート 魔法 冒険 ミリタリー 日常 ハッピーエンド グルメ 青春 ゲーム ダンジョン 読了時間:約25分(12,110文字)
連載 完結済 5エピソード
【夏のホラー2025】日常的によくある心霊体験を今回は水がテーマなので、それを書いていきたいと思います。怖くないホラーです。幼い頃から、霊が「見える」家族の中で育った主人公にとって、心霊現象は日常だった。小学校に上がった頃、自分たち家族のように霊が見えるのは“当たり前”ではないと知り、世界が違って見えるようになった。 そんなある日、学校の遠足で訪れたのは、地元では“自殺の名所”として知られる大きな滝。展望台からその雄大な景色を眺める中、主人公の目に映ったのは──滝の上に立つ、一人の人影だった。周囲の誰もが気づかない中、その人物は静かに下を見下ろし、やがて音もなく滝へと身を投げた。驚き、友人に訴えるも「誰もいなかった」と返され、自分だけが見た光景だったことに気づく。 やがて月日は流れ、運転免許を取得した主人公は、かつての遠足先であるあの滝に友人と再び訪れる。あの日の記憶が、滝の轟音とともに蘇る。展望台に立った瞬間、再び現れるあの“人影”。今度ははっきりと、長い黒髪の女性であると分かる。彼女は前回と同じように滝の上に立ち、そして再び──身を投げる。 その瞬間、主人公の脳裏に、女性の断片的な記憶が流れ込んでくる。失恋、裏切り、孤独、そして絶望の果てに辿り着いたこの場所。誰にも看取られず、誰にも気づかれず、彼女はあの日、ここで命を絶った。そしてその魂は今も滝の上で、毎日、繰り返すように落ち続けている。 心に強く刻まれた“彼女の痛み”を抱え、主人公はただ静かに涙を流す。友人に問いかけられても、答えるのはこうだ──「悲しい女性の話を聞いただけだよ」。 人は「死ねば終わり」と言うかもしれない。けれど、終わらなかった魂も確かにいる。あの滝の上で、今日もなお、何かを伝えようとしながら──。
作品情報
ホラー[文芸] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月06日
夏のホラー2025 シリアス ほのぼの 男主人公 和風 現代 職業もの 日常 ハッピーエンド バッドエンド グルメ 青春 怪談 近所 あなたの身近 読了時間:約18分(8,969文字)
連載 6エピソード
バレンシア王国の王都から南へ数十リーグ、小さな村「ロサーナ」には、今年も豊かな実りが約束されていた。アントニオはその村で農業を営む青年だった。親を数年前に病で失ってからは、たった一人で麦畑と向き合い、耕し、育ててきた。  でも、ひとりじゃない。アントニオには心に決めた婚約者、村娘のマーガレットがいた。  ところが、その日。黄金色に波打つ麦畑のそばの農道に、高級な馬車が止まった。  降り立ったのは、見たこともないような豪奢な服を着た男と……もうひとり。信じられないことに、マーガレットだった。 「……マーガレット?」  アントニオが呼びかけると、彼女は軽く鼻を鳴らして笑った。 「アン。わたし、結婚やめる」 「……え?」 「婚約、破棄するわ。ごめんね。でも、もう決めたの。わたし、サラゴサ男爵様と王都で暮らすの。あんな畑の土なんて、もう触りたくない」  耳を疑った。何を言ってるんだ、マーガレット。 「……マーガレット、そいつに騙されてるんだ。男爵が、村の娘と本気で付き合うわけない。王都に行ったって、どうせすぐ捨てられる。そんなの……遊びに決まってる!」  必死だった。怒りというより、彼女を守りたい一心だった。  だが、その時。 「貴様ぁ……!」  男爵が、鷹の羽をあしらった帽子を払って、アントニオを睨みつけた。その目には、蔑みと怒りがあった。 「このサラゴサ男爵の、真実の愛を……愚弄したな、平民が!」  男爵の号令で、背後に控えていた従者たちが動いた。ゴツい腕を持った男が二人、麦畑にズカズカと踏み入り、苗を蹴り倒していく。たわわに実り始めた麦の穂が、無惨に踏みつけられる。 「やめろ……やめてくれ!!」  アントニオが走り寄るが、男爵の手下が拳を振るう。  ゴッ。  強烈な衝撃が頬に走り、視界がぐらりと揺れた。そのまま地面に倒れ込み、泥の匂いが鼻を突いた。 「平民のくせに、俺様に説教だと? 身の程を知れ、田舎者が」  男爵の靴が、アントニオの顔すれすれで地を踏み鳴らした。 「行くぞ、マーガレット。こんな泥まみれの世界と関わっては、おまえの美しさが穢れる」 「うん、ありがとう、男爵様。……もう、こんな村に未練なんてないから」  ふたりは、夕陽に染まる麦畑を背に、馬車へと戻っていく。破壊された麦の中で、アントニオは地面にうずくまったまま、目を閉じるしかなかった。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15
最終更新日:2025年07月06日
ほのぼの 男主人公 西洋 中世 職業もの ハーレム チート 内政 魔法 日常 ハッピーエンド グルメ 青春 農業 妖精の愛し子 読了時間:約19分(9,410文字)
連載 103エピソード
 【カクヨムさんにも掲載中】  王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月06日
ギャグ ほのぼの 女主人公 魔王 勇者 西洋 学園 中世 逆ハーレム チート 魔法 ハッピーエンド ダンジョン BK小説大賞 王女殿下 読了時間:約371分(185,010文字)
連載 完結済 48エピソード
 魔法学院最後の一幕  ネーデラ王国魔法学院の広場には、卒業生たちの笑顔が溢れていた。その中央で、ひとつだけ異様な空気が漂っていた。 「これ以上、婚約関係を続けるつもりはない。悪いが、今日で終わりだ」  その言葉に、会場の空気が凍りついた。 「なに言ってるの?」  ロッテ伯爵令嬢。理知的な眼鏡越しに目を見開いていた。彼女の横に立つのは、かつての婚約者ハーグ。式典の途中、突然の婚約破棄宣言だった。 「俺様、もうアインと付き合ってる。あいつの方が魅力的さ」  そう言って彼が肩を抱いたのは、ピンクの髪を軽やかに揺らした少女。アイン。男爵家の令嬢。にやりと笑って言う。 「だってぇ、ロッテってお堅いん。男の人、楽しませなきゃ♡」 「一年後に、結婚って」 「気が変わったんだよ。俺様のせいにすんな」 「やめて」  振り返り、駆け出した。銀髪が宙に舞い、ドレスの裾が風を切る。群衆の視線を引き裂くように、ロッテは会場から飛び出して。  誰かに思い切りぶつかった。 「あっ、だ、大丈夫ですか?」  低く、どこか気の弱そうな声。ぶつかった相手は、金髪に分厚い眼鏡をかけたマルセルだった。物静かで目立たない、けれど学院でも知る人ぞ知る天才魔術師。実は隣国の伯爵家の三男だ。 「ご、ごめんなさい。いま、わたしっ」 「足をひねったみたいですね。すぐに医務室に」 「ダメ、式場に戻るなんていやなの」 「わかった。外に出ましょう。ボクが支えますから」  学院の門を抜けると、夕暮れが街を金色に染めていた。ロッテの歩幅に合わせて、マルセルはゆっくりと歩いた。街角に立つ、木造の看板。その文字がマルセルの視界に飛び込んだ。  魔酒とハーブの宿酒場  マルセルが小さく喉を鳴らした。無意識に、口元がゆるむ。彼の頬がわずかに赤くなる。 「飲みたいの?」  ロッテがふと、尋ねた。マルセルは慌てて視線を逸らした。 「い、いえっ、そんなことは!た、ただ、ちょっと看板が……気になっただけで!」 「ふふ。いいよ、わたし、おごってあげる」 「えっ?」 「わたしも今日はボロボロになって飲みたい気分なの。だから、付き合ってよ。先に酔いつぶれたら許さないから」 「は、はい!」  チリン、と澄んだ鈴の音が鳴った。夕暮れと、木の香りと、ほんのりと漂うハーブ酒の香りが、彼らを迎え入れた。  不思議な二人の、忘れられない夜が始まろうとしていた。
作品情報
異世界[恋愛] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年06月30日
シリアス 男主人公 女主人公 西洋 中世 日常 ハッピーエンド バッドエンド 青春 悲恋 悪役令嬢 婚約破棄 幼児 継母 連れ子結婚 読了時間:約170分(84,538文字)
前へ 12 次へ