「な、にを…何をしてっ…!」
――ああ…。
そんな顔をしないでください。
これは――…これは、貴方に対する『謝罪』なのです。
「何をしていると、聞いているんだ!」
今にも泣き出しそうな顔をしないでください。
でも…痛い…
痛い…。
私は、夫である彼の目の前で…切腹をした。
自分のお腹を刺したから当たり前だけど…お腹が、痛い…。
「聞いているのかっ?!いや、それよりもっ…早く治療をっ――」
その言葉を聞いた私は、瞬時に差し伸ばされた彼の手を払った。
――触られたくなかったからだ。
既に汚されてしまった私を…貴方は、私に何時ものように“また”優しく…愛しく…触れようとしていたから…。
私の行動に驚いたのか、彼の差し伸ばされた手は硬直したまま…綺麗な紅い眼が、見開き「何が、起こった?」と、言わんばかりの目で、私に訴えかける。
「…申し訳、ございま…せん…旦那様、私の…私の身勝手を…お許しを…」
私は、腹部の痛みに耐えながら…なんとか言い切ることができた。
しかし――…その後の会話が、覚えていない。
憶えているのは、夫の手の温もりと「分かったっ…待っているっ…!」と、悲願の籠もった言葉だった――…その言葉を聞き終えると…私は、静かに目を閉じた。
身分差 年の差 悲恋
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