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連載 1エピソード
紫がかった朝焼けが、赤みがかった紅葉を仄かに照らす。 陽が出ればとても積極的に外に長居する気は起きないが、この時間は風が吹けば少し涼しく感じる程度の、快適な気温。 風から火を守るため、左手で覆いながらライターを二度、三度ほど鳴らす。 ライターをポケットに仕舞い、右手の人差し指と中指の付け根辺りで煙草を軽く押さえたまま、息を吸う。 口の中を軽い苦味と、酸味、甘味が、順に満たし、混ざり合う。 軽く鼻で息をすると新鮮で冷たさを含む空気が入ってきて、味に上品さが加わる。 その動作を幾度か繰り返せば、目の前の山間の隙から陽が顔に差す。 携帯灰皿に吸殻を入れて、スライドさせて蓋を閉じる。 俺は4トントラックに乗って、全国に荷物を運ぶ、個人だが配送業をやっている。 だが、仕事はもう1つ……というよりも、そっちがメインだ。 「おい幸音、起きろ」 背後のトラックの方へ向き直り、叫ぶ。 「……起きてますよ、勇雄おじさん」 「何言ってんだ、散々呼んでも起きなくなった癖によ」 「今日のターゲット《勇者候補》は?」 「山口の団地のガキだ。さっきあの似非女神から連絡があった」 「わかりました。山口……幾つか見てみたい所があるんですけど……」 「ああ、勇者候補のガキを轢き殺して、仕事終わった後に時間がありゃ連れてってやるよ」 そう、俺の仕事は、この世界に生きる《勇者となりうる逸材》をトラックを使い、異世界に転生させること。 今日もいつもと同じ。助手席に少女を乗せ、鍵を回し、エンジンをかける。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー]
最終更新日:2020年01月07日
年の差 オリジナル戦記 ハードボイルド 異能力バトル 冒険 ラブコメ シリアス ダーク 男主人公 女主人公 魔王 勇者 現代 職業もの 読了時間:約9分(4,170文字)