俺、春枝は、わからない言葉が耳に入ると、何でもかんでもすぐに調べる人間だった。
中学生の半ばの頃なんかは、横文字や英単語など、普段耳にしない少し格好の良い単語なんかを調べては無理やりひけらかし、俺のだらしない得意顔を見て大抵周囲は眉を顰めたものだった。
今となってはそんな小恥ずかしいことは卒業し、少なからず人並みに周りの目も気にするようになっている。痛々しい過去があろうがどうやら高校生にはなれるようだ。
ただどうしても調べても調べても、自分の中でしっくり納得のいく解答が得られないものはある。
主にそれは人間の「感情」に関するワードだ。
実際に経験をしていないものに関してはもうお手上げだ。解りっこない。貪欲に、全てを知りたがる俺の人生においては“宿敵(ライバル)”とも呼べよう。
……っと、そういうアレは中学校に置いてきたんだった。
まあ、中学校卒業の時に「喪失感」というものはほんのりと理解できたし、高校入学のころに「人見知り」の意味を如実に体験することになったし、
これらばかりは体験して知っていくしかないのだろう。
しかしこうやって少しずつしかわかることができないということは、知りたがりの俺にとっては、酷、というか焦燥感を覚えるので嫌だ。まだ16歳なんだけどね……。
兎角、心機一転高校に入学してからも親しくできる人間が家族以外にほぼ居ない俺だったが、2年生に進級して少し経ったこの5月半ばの昼休み、唯一話せるクラスメイト(隣の席なだけなんだけど)ができた。
その子は生徒会長で、しっかり者で、だれに対しても明るく優しい。こんな寂しい俺に対しても。
この5月頭が提出期限の進路調査票の回収の催促に来た際に話しかけられただけで、もうそれだけで嬉しかったし、もっと話したいと思った。
花の高校生活、ひとりってのも寂しいしね。
疑問質問など、きっかけを作ってはとなりの生徒会長に話しかけるのがここ最近の日課、というか俺のクラスでの処世術になっていた。
知らない単語を日常から探っては隣に問う。すると大体正しい回答が返ってくる。本当に博学な奴だ。
そうして何でもかんでも問うことに慣れすぎていた俺が、昼休みに隣で小さなお弁当をつついている黒髪のしっかりものに言い放った言葉が、その日初めての俺の発声だった。
スクールラブ 日常 青春 ラブコメ シリアス 男主人公 学園 現代
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