最低限の愛をくれる家族。
屍人のような形相で往来を闊歩するスーツ姿のマネキン達。
テンプレートな会話で満たされた校内。
繰り返される日常。
極々平凡な毎日を過ごす中学3年生の和人は、これから先の人生も焼き直しのような日々を送る事に一分の疑問も抱いていなかった。
起床、登校、勉学、帰宅、睡眠。
いずれ登校は出社。
勉学は仕事へ。
分かり切った日常を過ごす和人は、いつしか変化を望むようになる。
大きな物で無くても良い。
ただ、平凡な日々を少しだけ彩る何かを求めていた。
一方、世界ではワールドクリエーションという箱庭型シミュレーションゲームが流行していた。
地球儀型の本体を握り思念を伝えれば、ワールドクリエーションの世界は思いのままに姿形を変えていく。
天変地異を引き起こし、ゲーム内の人々はミームに従って様々な行動をとる。
学校でも大いに流行しており、放課後の教室はワールドクリエーションの話題で持ちきりだった。
大半の生徒はゲームを所持しており、和人のクラスメート達も例外ではない。
だが、和人はゲームを持っていなかった。
むしろ、空想の世界を熱く語るクラスメート達に辟易していた。
その日は下校時に豪雨が降り注いだ。
濡れた体を風呂で温め、家族が帰宅してから夕飯を食べる。
何事も無い一日を終らせるべくベッドへ潜り込むと、そこには薄っすらと青い光を放つ玉があった。
地球儀を模したジオラマ。
ワールドクリエーション。
明らかに自身の物ではないのだが、和人は出来心から玉へ思念を送った。
『世界が笑顔で満たされますように』
その日を境に和人の平凡な日常は歪み始める。
この作品は「カクヨム」にも掲載しております。