彼はこの日、22時32分になってもまだ仕事を続けていた。最後に定時退社したのはいつだろうか。くたくたになりながらもようやく仕事を終えて、終電に走る毎日に嫌気が差していた。そうして彼は、その場から逃げ出すことを決めた。
駅に着き、これまでの人生について考えた。これまでの俺は、一体何を楽しみに生きていただろう。それすらも仕事のせいで忘れてしまったのだ。もうこんな毎日、耐えられない。そうして彼は、電車に飛び込んで死ぬことに決めた。これでもし異世界にでも飛べれば、さぞや平和な毎日が待っているんだろうなぁ。
彼は線路に下りると、正面を向いて電車を待った。それから間もなくすると電車がやって来たので、彼は思い切って目を閉じた。しかし、しばらく待っても痛みが全然やって来ない。なぜなら彼は死んでいなかったのである。
おかしいと思って目を開くと、正面には悪魔を名乗る者が浮いているのが見えた。そして彼女は口を開き、妙なことを言い出した。
「お前のせいで三人もの人間が死んだ」
悪魔はそう言って、彼に向けて三人もの人間が死に至るまでの映像を見せ始める。
そこには、彼が犯してしまった過ちが映っていた……
第29回電撃大賞 原題「地獄に堕とされた男」一次選考通過作品です。