遠い遠い世界のどこか。
あるいはこの世界には存在しない場所なのか。
断崖絶壁の崖にひっそりとたたずみ、そのくせ息を詰まらせるほどの威厳を漂わせるどす黒い城がそこにあった。
その城の上空では黒雲が立ちこめ、時々激しく光る雷鳴がごうごうとうねりをあげている。城へと続く道は細く切り立った崖で、落ちればまず助からないであろう奈落が左右に広がっていた。
城の入り口は使われていないのだろうか、無数の蜘蛛の巣がはっていて、焦げ茶色の門の端に黄緑色の苔《こけ》を纏《まと》っていた。言わずと知れた巨城「ニブルヘイム・アルフィリア」。
詳しい詳細を知る者など誰一人いないが、なぜか噂だけが独り歩きしている。
知ったかぶりをして噂を話す者は、老いも若いも、女も男も話の最後には顔面蒼白となり、噂はこう続いて終わる。
「その巨城を見るな、入るな。魂を取って食われるぞ」