世界が終焉に向けて加速する中、朝寝坊常習犯の騎士が目覚めると彼に跨っていたのは艶めかしい美女でも甘えんぼな新妻でもなく、魂ごと丸呑みにされそうな恐ろしい仮面をつけた魔女だった。
突然の来訪者に寝こみを襲われ困惑する騎士に対し、魔女は悪びれもせず可憐な声で告げた。
「魔王が禁じ手を使いました。いずれ世界は糸が切れるように破滅します。騎士様に、この世界を救って欲しいのです」
その日、世界と異なる時間軸を持ち、周囲の時を歪ませ、傷を受けてもたちどころに回復してしまう事からかつて『悪魔』と称された騎士と、ある非道な儀式により体内時計の歯車が全て欠けてしまい、その身が時を刻まなくなることで不老と同時に孤独と成り果てた魔女の、奇怪なパーティが誕生した。
大陸の極西から南東へ目指すは魔王の居城。たどる道筋で、魔王討伐に必要なアイテム『クロノカリバー』の材料を手に入れなければいけないのに、自称・地獄の番犬の邪魔が入ったり、城塞都市の喰えない大司教に領主殺害の容疑で投獄されたり、仮面の魔女より遥かにセクシーな魔女に誘惑されたりと、様々な難関が騎士たちを待ち受けていた。
そんな中、彼らは多くの者たちとの邂逅を果たす。義賊と共に村を守る復讐の火くすぶる暗殺者、成樹となる日を目前に生贄の危機にさらされる修道女のアルラウネ、幾多の傷で醜悪となり戦い勝つ事でしか肯定されることのないオーク、下卑た陰謀に巻き込まれゆく誇り高く騎士に憧れる奴隷闘士の娘、物語を代金に怪しい骨董品をさばき真実の愛を探す万事屋、長くは続かないと知りながら人と暮らす事を選んだニンフ……。
場の空気に馴染めない男と、場の空気を読めない魔女が、運命に翻弄される幾多の命に背を押され、罵り合い、ごく稀に手を取り合い、絶望の怒涛に飲まれながらも希望の糸を紡ぎ織りなす冒険譚