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連載 2エピソード
この世界には2種類の奇病がある。 1つは生まれつきのもの。 もう1つは呪いによるもの。 しかし、必ずしもそれが悪いものだとは限らない。なにせ奇病を患う者だけが、魔法を使うことができるのだから。患者が精神的に苦しめば苦しむほど魔力は増大する。 故に奇病との付き合い方は人それぞれである。 それを治療し魔力を失うもの。 その苦しみに耐え魔法を使い続けるもの。 それに侵し尽くされ永い眠りにつくもの。 そもそもそれを自覚していないもの。 そしてこの世界には、自身が奇病を患いながらも、その魔力を使って他者の奇病を治療する“奇病医”が存在する。 そう、この街にも。 読者の中にも知らないものはいないだろう。 若く優秀だが冷酷かつ守銭奴。 かの天才奇病医、 「エスメ・ガザニア」  深く帽子を被った少年はそう呟いて、写真の中の燃えるような赤い髪を見つめた。そして持っていた新聞をくしゃくしゃ丸めて運河に捨てる。  きらめく水面を、ポロポロ紙くずを切り離しながら新聞は滑っていき、やがて小橋の側面に貼りついた。その小橋をコツコツとハイヒールが鳴らす。  彼女は長い赤髪を日に透かしながら、エメラルドの宝石眼に大きな屋敷を映した。ふう、と息を吐き、呼び鈴を鳴らす。  そして屋敷の扉が開いた。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] 残酷な描写あり
最終更新日:2022年12月27日
ファンタジー 奇病 獣耳 読了時間:約10分(4,607文字)