ある時、誰かが言った。
――人間は常に何かが欠落している
初めは確かにあったのに、時間と共に消えていくもの物がある。
それが何かは人によって異なる――
それは若さかもしれないし、小さな時の記憶かもしれない。はたまた、歳と共に衰える視力や、人間としてのモラルかもしれない。
しかし、それらは全て生まれてからの話。
この世には生まれた時から、いや、生まれる前から何かが欠けた者がいる。欠落している者がいる。
そして、何が欠落しているかはその本人にも定かではない。
しかし彼らは、彼女らは、確かにこの世に存在している。
自らがこの世の理から外れていると知りながら、自分がこの世の物ではないと知りながら、
今も、強く儚く、
生きている。