転生先は決して救われることのない『哀しき悪役』。
私の母親は禁忌を犯し、『黒の災禍』と呼ばれる大悪魔ロキアの封印を解いた。
母によって封印が解かれたロキアは、私、アウル・ブラウンの体に寄生し、頭の中で「人間、コロス」、「人間、滅びろ」など物騒なことを毎回呟いている。人間殺すマンか貴様は。
『悪魔の器』として選ばれた私は、教会やら国に危惧され、赤子の頃から『鳥籠』と呼ばれる塔に幽閉されている。
しかし、私は一度も脱走を実行したことはない。
なぜなら、この世界の秘密を知っているから。
まず私は前世の記憶を持っている『転生者』だ。
転生先であるこの世界は、前世で愛読していたファンタジー小説『フォルトナ』の世界と一致している。
愛読していたからわかる。自分の配役、世界の秘密、物語の結末を。
私アウル・ブラウンの配役は『黒幕』の一部で『悲しき悪役』と呼ばれるものだった。
幼少期から監禁生活を送ったアウル・ブラウンは孤独で愛に飢えている少女だった。
10歳の誕生日に『鳥籠』から脱走した彼女は、この物語の『黒幕』である大悪魔ロキアに体を乗っ取られ、破壊衝動を抑えることが出来ず、目が合ったら勝負を挑む戦闘狂(バーサーカー)に陥った。
やがてアウルは主人公やヒロインに戦いを挑まれボコボコにされ死を迎えるのだが…。
前世で死を体験したからわかる。小説と同じ死に方をするなんて冗談じゃない。絶対いや。
私は静かに過ごし、静かに死にたい。
まずは、自身の死に直接影響しているロキアをどうにかしようと考えたが、私と彼は『運命共同体』という特殊な魂の契りで関係を断ち切れなかった。
つまり、ロキアが死ぬと私も死ぬ。私が死ねばロキアも死ぬ。
これがほんとのデッドロック状態か…と悟りを開いたのは言うまでもない。
まぁ長年一緒に過ごしたせいか、結局ロキアに情が移って彼を殺すことは出来なくなった。
かといってこのまま塔の中で一生を過ごすのも嫌だし…。
あ、そうだ。小説で主人公たちが活躍する当分の間は塔に引きこもって、本編が終わったら塔を脱出すればいいんじゃね?
…と考えた矢先、突然黒いフードを被った人達が塔の結界を壊しにやってきた。
え?何々、ロキア様あなたを救いに参りましたって!?
お引き取りを願いたいのですが。