怪物との戦争が繰り広げられる世界。
そこでは、戦いに勝利する力こそが絶対と信じられていた。
直接的でも、間接的でも、怪物を倒せる者にこそ価値があったのだ。
召喚術師のセイルは、日々聞こえてくる血なまぐさい話題に、心の底からうんざりしていた。右を見ても、左を見ても、世間の関心は戦争一色。いかに早く怪物を撃退できるか。いつ自分たちの生活に平和が訪れるのか。そんなことばかりである。
しかし、実際に戦うのは戦闘訓練を積んだ騎士や魔術師だ。学徒であれば学院に通い、敵を殺す方法を学んでいく。多くの者が戦うために生き、命を奪うことだけを目標にしている。
そうやって散っていった命が、いったいどれほどあっただろうか。
それがセイルの抱えた憂鬱だった。
自分も魔術師ならば、戦いに身を置くべきなのだろうか。そんな考えさえ出てくる始末だ。
しかし、実際のところ、セイルに戦いを期待するものなど誰もいない。
彼は、戦場はもちろん、模擬戦の場であっても、公的な勝利実績がないのだ。
勝率ゼロパーセントの落第術師。それが世間的なセイルの評価であった。
けれど、彼の本当の姿を知ったなら、その評価を改めることになるだろう。
いまや戦場の伝説にさえなっている存在――獣王。
その正体こそが、ほかの誰でもない、セイル自身なのだから。