一人暮らしの祖母が体調を崩したとの知らせを受けた高校二年の夏生(なつお)は、身の回りの手伝いをするために祖母が住まう田舎の町へと足を向ける。
夏生にとってその町は、幼かった頃の懐かしい思い出の場所であるのと同時に、決して忘れることの出来ない苦い記憶の地でもあった。
幸いにも祖母は軽い夏風邪だったようで、夏生が訪れたその日にはもう健勝な様子を見せていた。
夏休みに入ったばかりでこれといった予定のなかった夏生は、以前は毎年そうしていたように数日の滞在を決めると、翌日には歩いていける距離にある海へと足を運んだ。
何をするでもなく砂浜に寝そべっていた夏生だったが、閉じていたまぶたの裏に受ける陽が陰ったのを感じ、おもむろに目を開いた。
すると、そこには白いワンピースを身にまとった少女の姿があった。
慌てふためくわけでもなく、少女の顔をじっと見つめる夏生。
夏生はかつてこの場所でその少女と出会っていた。
それは四年前の、ちょうど今と同じようなよく晴れた夏の日のことであった。
人は大人になるために、子供の頃の大切な宝物を手放さなければならない時が必ずやってくる。
ただ夏生は願った。幼かったあの夏の日の記憶だけは絶対に失くしたくないと。
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