大陸南部、海に面したテヌルア帝国の首都には不思議な看板の店がある。
店の名前は「なんでも屋 鉄」
1年前に薬師の倉庫に突然出来た不思議な店は庭の草むしりやペットの散歩等の雑務から、大工のテコや酒場の厨房の手伝いといった専門的な事まで請け負う、文字通りのなんでも屋だった。
外側のボロボロさからは考えられないほど綺麗にまとまった店内には、細身の店主が一人。
帝国に住むには珍しい黒髪黒目のしょうゆ顔のその男には、見た目以上に大きな特徴があった。
それは「異世界から転移」してきたということ。
しかも、異世界でやっていた店の店舗ごと転移してきたということだ。
その男の名前は「山ノ井鉄二(やまのい てつじ)」
この物語はこの男が別に世界を救うわけでもなく、伝説としても語られない。転移した異世界で自分が楽しく生きるために日々駆けずり回る、一人の男の物語。