作品一覧全1件
短編
 『かせんかいだん』  とある辺鄙な田舎町にある小さな中学校には、真っ赤に染められた鉄製の螺旋階段がある。  段を昇る度に、靴底が無機質な音を鳴らす打楽器。  子供が嬉々として駆け上がりそうな、遊ぶことを目的としないはずの遊具。  非常階段として設置された、生徒の興味を惹きつける渦。  その好奇心を標的とした蟻地獄、螺旋階段は現在使用禁止になっている。  手入れや点検などを欠かしていない。  手摺や段が外れる可能性は限りなく低い。  事故が起きる確率など、宝くじで億単位の金額を引き当てる方が高い程に。  しかし、螺旋階段は使用不可能であった。  緊急時の非常口としても使われない、見かけ倒しの一品。  一体何の為の設計なのかと疑いたくなる、目的不明の無用の長物。  いつの間にか設置されていたもので、設置日施工日一切不明。  気づけば何かの軌跡のように、そこにあった。  いつ誰がこのような名をつけたのかは知らないが、蝸牛の殻のように回る設計から、蝸牛が跡を残して旋回する階段という念を込めて、蝸涎階段。  “かせんかいだん”と呼ばれるようになった。  そんな子供の注目の的となるべき“かせんかいだん”を登り切った者は、未だにいない――――
作品情報
ホラー[文芸]
最終更新日:2012年08月20日
夏のホラー2012 ホラー カタツムリ 螺旋階段 読了時間:約16分(7,982文字)