『かせんかいだん』
とある辺鄙な田舎町にある小さな中学校には、真っ赤に染められた鉄製の螺旋階段がある。
段を昇る度に、靴底が無機質な音を鳴らす打楽器。
子供が嬉々として駆け上がりそうな、遊ぶことを目的としないはずの遊具。
非常階段として設置された、生徒の興味を惹きつける渦。
その好奇心を標的とした蟻地獄、螺旋階段は現在使用禁止になっている。
手入れや点検などを欠かしていない。
手摺や段が外れる可能性は限りなく低い。
事故が起きる確率など、宝くじで億単位の金額を引き当てる方が高い程に。
しかし、螺旋階段は使用不可能であった。
緊急時の非常口としても使われない、見かけ倒しの一品。
一体何の為の設計なのかと疑いたくなる、目的不明の無用の長物。
いつの間にか設置されていたもので、設置日施工日一切不明。
気づけば何かの軌跡のように、そこにあった。
いつ誰がこのような名をつけたのかは知らないが、蝸牛の殻のように回る設計から、蝸牛が跡を残して旋回する階段という念を込めて、蝸涎階段。
“かせんかいだん”と呼ばれるようになった。
そんな子供の注目の的となるべき“かせんかいだん”を登り切った者は、未だにいない――――
夏のホラー2012 ホラー カタツムリ 螺旋階段
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