疲れた日常を生きる主人公は、満たされない心を、コーヒーで埋めようとしていた。
すぐ近くにあったのは、自販機の缶コーヒー。でも、缶コーヒーは自分へのご褒美にしては陳腐すぎた。
結局主人公は、コーヒーチェーン店に並ぶ。しかしクリスマス前、店は大行列で、並ぶことも諦める主人公。
別にコーヒーが飲みたかったわけじゃないし。駅のホームで寒さに耐えながら電車を待っていると、会社の後輩・冴島君が通りがかる。
「コーヒー店並んでたんだけど、混んでて諦めたんだ。」
そんな会話だけ交わして、冴島君はそのまま通り過ぎっていった――かと思った。
一分も経たずに戻ってきた冴島君の手には、缶コーヒーが2つ、握られていた。
「僕も飲みたかったんで。」
それは陳腐だと思っていたはずの、ただの缶コーヒー。それなのに、冴島君から受け取ったそれは、主人公の手のひらを熱く灯していく。心が――満たされていく。
「ありがと。」
二人で缶の蓋を開け、琥珀色の月を眺めながら、ほどよくぬるいそのコーヒーを飲み始めた。