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代表作 連載 3エピソード
 アンス・カルルには、ムファンブという伝説の戦士がいた。  ムファンブは、かつて村を救った。突如侵攻してきたアンス・フィシーの兵士たちを、その身一つで殲滅したのだ。お陰で村は安寧を得た。――ムファンブの命と引き換えに。  ウラロは、そんなムファンブの甥だ。ムファンブには子供がおらず、ウラロの父(ムファンブの兄)は脚に障害を抱えているため、ムファンブの後継者となりうるのはウラロとその姉弟しかいない。  よって村は現在、極めて脆弱な状態だと言える。ムファンブという絶対的存在を欠いた上、その後継者たる三姉弟は、まだまだ幼いのだ。  そんなある日のこと、村で事件が起きる。 「聖樹」と呼ばれる大木の幹に、無数の傷が発見されたのだ。しかもその傷は、アンス・フィシーの爪を想起させるものだった。  村はパニックに陥る。皆はこれを、アンス・フィシーからの宣戦布告と捉え、近日中に攻撃されるのだと慄く。  このままでは敵に蹂躙されてしまう。アンス・カルルに残された道は、ただ一つ。  やられる前にやる。つまり、敵地へウラロたち三姉弟を派遣し、奇襲を仕掛ける。  勿論、まだ幼い彼らにとって、それが無謀な作戦であることは明白だった。だが、背に腹は代えられないのも事実。葛藤の末、不安を抱えながらも、三姉弟は敵地へ出兵することを決断する。     ◆  ニェンガは、アンス・フィシーの女王に仕える側近だ。まだ無邪気さの残る女王を、最も近くで支えている。  ある日、クムワンバとサンスワが女王邸にやってきた。 「アンス・カルルを攻める」  これを受け、何故無闇に戦を仕掛けるのだ、と女王は激高する。しかしこの反論は、クムワンバらに一蹴される。我が村が安泰なのは、周囲を制圧しているからだ、と。政治の分からない雌は黙っておけ、と。  ニェンガはその瞬間、近い内にアンス・カルルとの戦が起こることを覚悟した。クムワンバが「攻撃する」と言えば、攻撃するのだ。今や女王の地位など名ばかりで、実質的な権力はこの二人が握っている。  ニェンガは頭を悩ませる。もしアンス・カルルとの戦が起これば、敵に真っ先に狙われるのは女王の首だろう。万が一、女王の身に何かあれば……。  蘇る過去の記憶。疼く古傷。――ニェンガは決心する。  女王を攻撃する者は、誰であっても皆殺しにする、と。
作品情報
ローファンタジー[ファンタジー]
最終更新日:2023年07月20日
オリジナル戦記 ミステリー 冒険 人外 勇者 ハッピーエンド 決闘 ファンタジー 読了時間:約38分(18,503文字)