傷ついた仲間が横たわる。
先刻まで笑顔を見せ、ともに戦ってきた戦友。
背中に致命傷を受けた彼は、
もう言葉を発することもないだろう。
流れ出た血液が懐かしい思い出とともに溢れ出る。
こんなはずではなかった。
廊下に備え付けられた明かりが風で煽られ、
冷気が鎧の隙間から抜けていく。
城の防備は万全だと聞かされていたし、
自分でもそう思っていた。
ひしと、己の剣を握りしめる。
揺らめく刃先を正面に向けたが、
あれだけ研鑽を積んだ日々を裏切るかのように、
手の震えが止まらない。
恐怖にすくんだ足が重い。
眼前に佇む巨躯の魔物。牛頭で鋭い双角を持つ。
人間のように二足で立ち、
両手には鍔のない刀を一振りずつ。
戦友の背中から、心臓ごと貫いた刀を引き抜く。
血を払い、光の無い双眸をこちらに向けた。
魔物のゆっくりと歩き出す動作に、
脈動する自身の心臓が凍てつく。
絨毯に広がった鮮血。
薄汚れた廊下の奥で、悲鳴にもならない声が漏れた。
震える剣を振る間もなく、凶刃に体を引き裂かれる。
凍てついたはずの自分の血は、思ったよりも暖かかった。
止めどない吹雪がふきあれるこの地より、遥か遠い場所。
とある教会で一人の捨て子が拾われた。
夜空の色をその目に宿す。
後に、目に映る全てを救ったとされる子ども。
混乱を収め、万世を平和に均した彼の者たちと、同じ力。
この物語はその少年が歩んだ軌跡。
魔王を巡り、星を救う。
少年たちの冒険譚である。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー]
R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月17日
ネトコン13 集英社小説大賞6 123大賞6 シリアス 男主人公 魔王 勇者 西洋 魔法 冒険 オリジナル戦記
読了時間:約1,078分(538,557文字)