高校最後の夏、これまで何の接点もなかった女子生徒の手によって僕の平穏は崩壊した。
高峰結衣が僕に接触する目的は、不登校の友人に会ってほしいというものであった。
彼女の言葉がきっかけで、不登校生徒である菜々子と僕は友人関係となったのだが、その架け橋となった高峰結衣は理由も明かさずに東京の高校へ転校して、この田舎町から姿を消した。
それから連絡も途絶えていた彼女との再会を果たしたのは、あれから十年もの月日が経つ秋のこと。
町にできた新しい本屋で、僕はある女性に一目惚れをした。それが高峰結衣であることなど知る由もなく、僕は意図的に彼女を避けるようになった。到底、僕のように凡庸でつまらない人間には、叶わない恋であると自覚していたからである。
しかし、そんな儚い恋から二年後。
友人である菜々子の結婚式に参列した僕は、式場に高峰結衣が訪れることを知らされる。
十年前、高峰結衣はなぜ不登校である友人、菜々子に僕を会わせたのだろうか。
その真意を知るには、虐められていた少女の記憶と向き合わなければならなかった。