福岡の片隅にある小さなパン屋「たてやまベーカリー」。
高校生・楯山真は、両親とともに穏やかな日常を送っていた。一人っ子で、特別なこともないけれど、焼きたてのパンと家族の笑顔がある、ささやかな幸福の中に生きていた。
だが、17歳の夏休み——。
東京から転校してきたという謎の少年「九条蒼」が、真の平凡な世界を静かに揺さぶる。最初はただの転校生だった蒼は、ある日、真にこう告げる。
「お前は“七宮家”の血を継ぐ者だ」
自分は誰なのか?
家族への裏切りなのか?
「一般」と「特権」、「自由」と「義務」の狭間で、真は戸惑いながらも、三日月翠や月蓮会の若き継承者たちと出会っていく。
そこで彼が見たのは、血の重み、運命の残酷さ、そして何よりも——若者たちが未来を選び取ろうともがく姿だった。
これは、ただ一人の少年が“名前”を取り戻すまでの物語。
偽られた日常の先に、本当の自分が待っている。