魔界を統べる魔王ヴァザルは玉座で深く息を吐いた。彼が王位に就いて二百年。その圧倒的な力と類稀なる才覚によって、世界にはかつてないほどの平和と安定が訪れた。
争いのない日々。それは誰もが望んだ理想のはずだった。しかし、魔王ヴァザルは知っている。その盤石な平和こそが世界を蝕む病であると。終わりのない安定に胡坐をかき、文明の進化は停滞し、魔族たちの間からも挑戦する心が失われつつあった。
静かに、しかし深い焦燥を胸に抱いた魔王は一つの奇策を講じる。それは自らを倒す「勇者」を育てることで、停滞した世界に変革の光をもたらすという前代未聞の計画だった。