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連載 4エピソード
「血の奴隷?」 最強のウィッチャーと謳われるイゼルは、それを聞いて思わず微笑んだ。「そんなの、とっくに昔の話だよ。今は人間が“主”となる時代だ。そうだろう、僕の小さなコウモリちゃん?」 メイド服を着たバンパイア、ヴィオレッタは無表情で、硬い口調で答えた。「はい、ご主人様」 イゼルは眉をひそめ、ヴィオレッタを強引に自分の懐に引き寄せた。 「お利口じゃないね」 「わ、私は——んっ!」 イゼルがヴィオレッタの首筋に手を伸ばすと、後者の表情がわずかに動いたが、抵抗はしなかった。ヴィオレッタの首には、黒い首輪が異様な存在感を放っていた。 ウィッチャーのお嬢様はその首輪をそっとずらし、バンパイアメイドの首筋に顔を埋めると……噛み付いた。 ◇ 寿命論ではない。しかし、寿命論に勝る苦しみだった。 影魔の血脈はイゼルに常人を遥かに超える力と生命を与えたが、同時に彼女を絶え間ない戦友の死の痛みに晒し、罪悪感は彼女を苛み続けた。 「傍にいること」——それは彼女にとってあまりに贅沢な願いだった。 ある墓参りに訪れ、偶然捕らえられた一人のバンパイア令嬢と出会うまで。 バンパイアの長くしなやかな命は、イゼルに「この子をずっと傍に置きたい」という強烈な思いを抱かせた。そのためなら、バンパイアと人間の盟約を破ってでもヴィオレッタを囚(とら)うことを彼女は躊躇わなかった。 ◇ しかし、囚う対象こそが己の弱点であるならば、その強引さと固執もいつかは和らぐものだ。 「イゼル」 「何だい?」 ヴィオレッタは、今しがたキスした唇を舐めた。「タバコ、やめられないの? 口の中、煙草臭いわよ」 イゼルは困ったように言った。「うーん…それはちょっと難しいな…」 「じゃあ、もうキスしない」 「わ、私がやめる!やめるから!絶対やめるから!」
作品情報
異世界[恋愛]
最終更新日:2025年07月03日
読了時間:約38分(18,511文字)