――春、東北の街で。
38歳の独身営業マン・村上孝司は、新年度初日、いつもより早いバスで出勤した朝、交差点ですれ違った若い女性に心を奪われる。
やがて、その女性・原田みゆきと毎朝挨拶を交わすようになり、言葉少なながらも少しずつ距離を縮めていく二人。
みゆきは地元で就職し、1ヶ月の研修でこの街に滞在していた。彼女の母は病弱であり、みゆきは自らの将来よりも家族を優先して生きることを決めていた。
偶然の出会いから始まった関係は、やがて励まし合えるほどの温かいものへと育っていく。
しかし、別れの時は静かに、そして確かに訪れる――。
何気ない日々の中に宿る想い、言葉にできない優しさ、そして春にはまだ遠い小さな恋の物語。