掟の女神テミスは、神々の王ゼウスの2番目の妃だった。
けれど、神妃という座を退いた今もなお、彼女はオリュンポスの傍らに立ち続けている。それは愛のためではない。世界を律する秩序と理のため——。
ゼウスの新たな正妻となったのは、結婚と家庭を司る女神ヘラ。叔母でもあり、前妻でもあるテミスに対し、彼女は憎しみも嫉妬も抱かない。ただ、理解しきれぬ感情が、胸の奥で静かに渦巻いていた。
そして、誰も知らぬ場所から二人を見つめる声がある。
それは最初の妃、深き叡智を持つ女神メティス。
彼女はかつてゼウスに飲み込まれ、その精神の奥底で、今も静かに“思慮”として生きている。
掟か、愛か、それとも思慮か。
神々の王のもとで交差する三つの在り方が、今日も天上の秩序を形づくる。
これは、“妃ではなくなった女神たち”が、それでもなお大神の傍に在り続ける物語。