地図にない場所も、道は続いている。
星と薬草の声に耳を澄ませ、銀髪の少女リアナと薬師エルミナは、不思議でやさしい世界をめぐる旅へ。
幻の「妖精の泉」と、そこに咲くという伝承の花「月光花」を求めて――ふたりの旅は、一枚の未完成な地図から始まった。
けれど、それは単なる出発点にすぎない。風の流れ、名もなき草の姿、誰かが残した小さな足跡や祈りの言葉。
目には見えなくとも、確かに存在するそれらを拾い集めながら、ふたりは自分たちだけの地図を描いていく。
行く先々で、見知らぬ薬草と出会い、星の位置を測り、木々のざわめきに耳を澄ませる。
霧に包まれた森、月明かりだけを頼りに進む夜、古びた石碑に刻まれた謎めいた記憶。
忘れ去られた場所にも、静かに息づく命と物語がある。
リアナは空を仰ぎ、星の角度を測って天の道を探す。
エルミナは葉を観察し、根に触れ、草の力を確かめる。
正反対にも見えるふたりのまなざしは、旅のなかで少しずつ交わり、互いの歩幅を覚えていく。
旅の記録に残されるのは、草の名前や方角だけではない。
風の匂い、石の手触り、出会った人の笑顔や沈黙、そのひとつひとつが、やがてかけがえのない地図になる。
言葉にならないものの気配を感じ取りながら、ふたりは今日も、まだ誰にも知られていない風景へと歩いていく。