作品一覧全3件
連載 2エピソード
探索者、という職業がある。 それは、世界のありとあらゆる神秘と謎を追求し、未だ知らぬ知識を手に入れんとする者たちのことだ。人の手の及ばない未開地域に赴き、未知を求めて森を海を大地を大空を駆け、未知と相対し、知識を得る。その為ならば容易に命を賭け、己が魂を捧げる。 例えば、七色に輝く湖、燃える氷河、昇る滝、空泳ぐ魚。例えば、見たこともないような動植物に、それらが作り上げる独特な生態系。例えば、既存する総てから逸脱した特異な鉱物に、まるで生きているかの如く脈動する洞窟。例えば、竜の死骸に寄生する宿り木に、雲を突き抜ける巨大な花。例えば、例えば、例えば――――奇跡のようにすら感じる、美しく壮大で幻想的な景色。 神秘という言葉さえ、それらを表現するには生温く、そして余りにも稚拙なものと成り下がる。そんな光景を求めて。 そして、彼ら探索者から齎される知識や素材は往々にして貴重であり、巨万の富を築く事も難しくないとされている。危険であるが故に、齎す総てが有用なものであるが故に。彼らは賞賛され、喝采され、憧憬の念を抱かれる。 そして僕も、彼らに憧れる内の一人だった。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月07日
ネトコン13 123大賞6 スピアノベルス大賞1 パッシュ大賞 男主人公 純ファンタジー 狂気的 非転生モノ 非ハーレム 非恋愛要素 バトル 探索 幻想的 読了時間:約52分(25,981文字)
連載 完結済 1エピソード
※間違えて連載として投稿してしまいましたが、一話完結の短編です。  元々身体が弱かった僕は、人が抗えない怪物を倒し世界を救う、そういう空想の物語や英雄譚に憧れていた。  だってそうだろう? 誰もが自分にできないことを羨ましく思い、嫉妬する。人の心理的生理症状とも言える欲望だ。僕の場合はそれが少し子供じみていたという、それだけの話。  病弱で家からあまり外に出れなかった僕を思ってか、両親は多くの本を買ってくれた。勿論、家は貴族でもなんでもなかったから、小さな本棚が埋まるくらいだったけど、僕にとってはそれが世界の総てだった。  そんな生活をしていたから、英雄に憧れるのは必然だったかもしれない。けれど、身体は夢を見ることすら許してくれないまでに弱かった。心が踊る夢想の世界を描く本のページを捲る度に、その力をかければすぐにでも折れてしまいそうな細い腕が視界に入り、現実を突きつけられるのだ。  だから、僕が悪魔に魂を売ったことも、必然だった。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月05日
シリアス 男主人公 勇者 純ファンタジー バトル 読了時間:約21分(10,074文字)
短編
 いつの間にか勇者と、そう呼ばれていた。  死んだと思ったら異世界に飛ばされ、何も分からないまま勇者として魔王を倒す役目を押し付けられた。殺し合いや戦争なんて縁のない場所から無理やり連れてこられて、特別な力なんてなく安物の剣と防具の一式だけ持たされて。それで命をかけて人類を守れと。  最初の戦いはゴブリンを殺すことだった。もう幾年も前のことだが、その時の記憶は今でも鮮明に思い出せる。  お互い死に物狂いで武器を振るい、腕を斬られて足を斬られて、仲間さえ死んでいく中。それでも敵を殺そうとする彼らの目を。憎くて憎くて、けれども俺を止められないという事実が悔しくて、涙を流して死んでいく。そんな、この世界で真っ当に生を歩んでいる者を殺す、クソみたいな感触を。
作品情報
ハイファンタジー[ファンタジー] R15残酷な描写あり
最終更新日:2025年07月05日
シリアス 男主人公 勇者 純ファンタジー バトル 読了時間:約34分(16,556文字)