都会で心に深い傷を負い、小さな田舎町に移り住んだ青年・水島陽介。
かつては雑誌編集者として人の言葉を世に届けていた彼は、
ある事件をきっかけに言葉を失い、今は町外れの古書店「縁」で静かに暮らしている。
ある春の日、陽介のもとに現れたのは、
明るく無邪気にふるまいながら、どこか影を感じさせる少女・柚木澪だった。
彼女は“風に託す手紙”――「風手紙」と呼ぶ小さな便箋を古書店に残し、
陽介はその言葉に少しずつ心を開いていく。
季節の移ろいとともに、ふたりの距離は静かに縮まってゆく。
だが、澪には生まれつきの病があった。
「時間には限りがあるかもしれない」と語る彼女に、
陽介は何ができるのか、自問しながら日々を重ねていく。
やがて冬。
澪は療養のため町を離れる決断をし、
陽介は彼女の不在の中でも手紙を書き続ける。
風の音に耳をすませながら、再び会える日を信じて。
そして春。
風がふたたび町に戻ってきたとき、
ふたりの物語は静かに、しかし確かに交差する。
“たとえ離れていても、風がつないでくれる。”
そんな風のような、切なくも温かなラブストーリー。
ネトコン13 集英社小説大賞6 123大賞6 スピアノベルス大賞1 パッシュ大賞 アイリスIF7大賞 アイデジIR大賞 シリアス ダーク 男主人公 現代 日常
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